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1LDKから始まる救出作戦 -The Hope I Pass to You-  作者: 流右京


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第10話「崩れた予定調和」

『勇志、只今戻りました。お互いの進捗状況の共有を提案します』


朝方。

窓の外が白み始めた頃、ベガが空から静かに舞い戻ってきた。


「おう、ご苦労様。まず、俺たちだが……装置製作は順調だ。ベガも後で確認してくれ」


『既にスキャン済みです。現時点で性能に大きな問題はありません。……手作業ゆえの形状の歪みについては、この際目をつむることにしましょう』


「相変わらず容赦ないな……」


「ベガ、おかえり。そっちの充填作業はどうだ?」


『おはようございます、清吾。充填率86.75%。順調です。上手くいけば、次の作業で100%に到達する見込みです』


「え……! もうそんなに!?」


勇志が目を丸くする。


『はい。予定よりも効率的に進行しました。全体工程を前倒し可能です』


「そいつは朗報だな! これなら、想定より早く未来に帰れるぞ、勇志!」


「…………っ」


一瞬、沈黙が流れた。


「……どうした? 嬉しくないのか?」


「え? いや……うん。もちろん、嬉しいです」


口元を引き上げ、無理に笑おうとしたその表情は、どこか硬かった。


『では、私は本日は先に点火装置の完成を見届けてから再充填に向かいます』


「ああ……頼む」


勇志は小さく頷いたが、その目はどこか遠くを見ているようだった。



◇◆◇◆◇



「さて、仕上げに入るか……っと」


清吾はチェックリストと部品を照らし合わせ、最後の工程に目を落とす。


――その時だった。


「……あれ?」


部品が、ひとつだけ、見当たらない。


部品番号C-17。


工具箱、棚、床。

思いつく場所を一通り探しても、影も形もなかった。


(おかしいな……)


昨夜、確かに確認した。

数も、状態も、揃っていたはずだ。


配送ミスでも、見落としでもない。


(……いや、違う)


清吾はふと、ある光景を思い出す。

片付けの最中、勇志が一つの部品を手に取り、じっと見つめていた背中。


胸の奥に、嫌な感触が走る。


(まさか……)


視線を上げると、リビングに勇志の姿はなかった。

静まり返った部屋の中で、閉じられた寝室の扉だけが、不自然に存在感を放っている。


「勇志……?」


扉に近づき、控えめにノックする。


「おい、大丈夫か?」


返事はない。

代わりに、布団の中からかすかに聞こえる、不規則な息遣い。


清吾は小さく息を吐き、ドアを開けた。


布団にくるまり、膝を抱え込んだ勇志がそこにいた。


「……やっぱりな」


『勇志のバイタルに異常あり。心拍数と体温の上昇を確認。外傷はありませんが――』


「ベガ、これは別の問題だ」


清吾は視線を逸らさずに言った。


「……勇志は今、現実に気持ちが追いつかなくなってるんだろう」


布団の中で、勇志の肩が小さく震える。


「……C-17の部品が見当たらないんだ。お前、知らないか?」


作業の話を持ち出したのは、無意識だった。

いつも通りに戻せば、戻ってきてくれる――そんな期待があった。


だが、勇志の肩がびくりと跳ねる。


沈黙。


それが、何よりの答えだった。


「ごめんなさい……」


小さな声。


「……ごめ、なさい……」


繰り返される謝罪は、理由を語らない。

まるで、崩れないための支えを探しているようだった。


清吾はゆっくりとしゃがみ込み、声の調子を落とす。


「勇志。落ち着け。深呼吸だ」


「ちがいます……っ」


かすれた声で、勇志は言った。


「俺、逃げたかったわけじゃ……」


言葉が途中で途切れる。

拳が強く握り締められ、視線が床を彷徨った。


「……でも」


布団の端が持ち上がり、勇志が床に額をつける。


「俺、わざと隠したんです。あの部品……」


一瞬だけ、あの時の感触が蘇る。

手のひらに残った、金属の冷たさ。


「もし、これが完成しなければ……まだ、ここにいられると思って……」


清吾は立ち上がり、そっと勇志の背に手を置いた。


「……そうか」


「ごめんなさい……俺が……弱いだけなんです……!」


「そうかもしれない。でもな」


手の重みは、静かだった。


「それを自分で分かってるなら、もう一歩進める」


勇志の肩が、震えながら沈む。


清吾は一瞬、言葉を探した。

ここで踏み込めば、後戻りはできない。


だが、踏み込まなければ――同じことを繰り返す。


「お前さ……俺に、父親の姿を重ねてただろ?」


勇志は息を呑み、言葉を失ったまま視線を逸らす。


「わかってたよ。でも、それが悪いとは思わなかった。むしろ……頼られるのが、嬉しかった」


その肩が、さらに小さく震えた。


「やっぱり、お前はアイツと良く似てるよ。アイツもそうだった、感情の起伏が激しくて……まるで自分をコントロール出来てなかったな」


「アイツ……?」


きょとんとする勇志の顔を見て、ふっと笑うとポツリと呟いた。


「実はな、この足の怪我。……俺の部下だった奴に、階段から突き落とされたんだ」


「え……? 突き……!?」


清吾は少し呼吸を整えると、過去の出来事を語り始めた。

Copyright(C)2026 流右京

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