プロローグ
とある田舎の古い家の一室で私は震えながら日々を過ごしている。
このあたりの部屋は地下にあるせいで日の光は無く、薄暗い部屋にはオレンジ色の灯が明滅し、幼い私の影を作り出している。
生まれてからずっと一室に閉じ込められた私の容姿は他の人にはきっとみすぼらしく映っているだろう。それほどまでに今の自分の姿は汚ならしい。
だってボロボロの服にぼさぼさの髪、おまけに手は痩せこけ、唇はひび割れているから。
ただ、自分の姿を見たことが無いのでどうなってるか知らないけど。
いつものようにすんっと鼻をすすって、手入れのされていない布団の上で丸まる。ここが一番地面が固くないので、お尻が痛くならないのだ。
そしてこれが私、花崎アヤノのいつものルーティーンになっている。というか、これくらいしかやることは無いし、後は泣いているかのどっちかだ。
泣いている理由は母親、何か自分の気に障ることでもされた日にはいつも私にひどい言葉を浴びせて、蹴られたり、殴られている。
「どうしてこんな目に?私のせいなのかな?」
いつもそばにおいてある黒いオオカミのぬいぐるみをぎゅっと抱いて布団の上で丸まって、自分の境遇に疑問を抱いているといつも透けてぷかぷか浮いている黒いローブの幽霊さんが反論してくれる。
「おぬしのせいじゃないじゃろ?まだ何もしておらんし、あの下種どもがそう言っておるだけじゃろ!」
「私が悪いわけじゃない?でもみんな言うし」
「おぬし、少し反撃でもしたらどうじゃ?下種の評価は災厄じゃし、これ以上落ちようもない」
「私、そんなことできないよ?」
想定通りの答えに幽霊さんは微笑み、私の耳元で囁く。その声はいつもの変な言い方ではなく極めてまじめで落ち着いたような一定のトーンでの声だ。
「だったらなぜ、君は魔女と下種に言われているの?」
いつもはしっかり見ることの出来なかった幽霊の表情がよく見える。青い瞳に黒い髪、声が女の人の声だったから性別は何となく分かってたけど、私よりも年齢は上のお姉さんだと思う。
そんな幽霊さんは私に何を期待しているんだろう。もしかして、私があのちーとのうりょく?でもあると勘違いして、期待してるのかな?
ん~、幽霊さんはいつも頭良さそうな雰囲気してたのにこういう場面だと、この人でも夢を信じちゃうこともあるんだ。そう思って私はふふっと笑みがこぼれた。
そんな談笑をしていると廊下から足音が近づいてくるのに気づけず、勢いよく扉を開けられて苛立った母親の存在に気が付いた。服装からして、妹の用事で外に出て気に障ることでもあったのかと察する。
「アヤノ!どうしてあなたは楽しそうなのよ!私はこんなにくるしいのに……」
母親の理不尽な怒りに私はどうすることも出来ず、お腹を蹴られこみ上げてくるものを抑えられずに吐き出す。今日は朝から何も食べてないから胃液しか出てないけど、このどうしようもない酸っぱい味は毎回嫌になる。
その姿に加虐心がそそられたのか私の首に手をかけて徐々に力を強めていき、目が霞んできた。
本当は抵抗した方が良いんだろうけど、なんだか、私の見てきた人が全員夢に縋っている所を見るとこの先私が生きていても良いことが無いんじゃないかな、だからこれは神様が残した楽になるチャンスなんだ。
そんなことを考えながら、ふと幽霊さんの方を見ると、声では聞こえないけど殺せと目と口の表情?で何となく分かる。でも、私にはそんなこと出来ないから幽霊さんに諦めたことが分かるように笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「…わた…し」
その先の言葉を紡ぐ前に何か鈍い音がして何も言えなくなり、視界は緩やかに狭まり、私は最期に幽霊さんの表情を目に焼き付けた。
読んでいただいてありがとうございます。




