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鬼神と月兎  作者: 月神世一


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63/63

ep 63

空からの襲撃、初めての矢

ハーピーの最後の個体が、ユイの放った矢によって眼球を貫かれ、断末魔の叫びと共に地面に激突してから、山道にはしばしの静寂が訪れた。しかし、それは安堵のため息をつくにはまだ早く、先ほどの激しい戦闘の余韻と、ユイの放った一矢の衝撃が、一行の間にピリピリとした緊張感を残していた。

「……やったわね」

最初に沈黙を破ったのはダイヤだった。彼女は手際よく、撃ち落としたハーピーの死骸から使えそうな羽根や爪を剥ぎ取りながら、まだ呆然と立ち尽くすユイに声をかけた。

「ま、相手は凶暴な魔物だったんだし、あんたがやらなきゃボウヤが危なかったんだから、気に病むことないわよ。それにしても…」

ダイヤは剥ぎ取った羽根を品定めするように眺めながら続ける。

「見事な一撃だったじゃない、ユイちゃん。あの場面で、よくぞまあ、あんなピンポイントで撃ち抜いたわね。あんた、意外と度胸あるじゃないの」

「わ、わたくし……ただ、ダイチ様を…お守りしたい一心で……」

ユイは、まだ少し震える手で、大切そうにボウガンを握りしめていた。初めて自らの手で(魔物とはいえ)命を奪ったという事実に、戸惑いと軽いショックを感じているようだった。しかし、それ以上に、ダイチを守れたという安堵感が彼女の胸を満たしていた。

「ユイさん、本当にありがとう! 僕、ユイさんがいなかったら、どうなってたか……!」

ダイチが、まだ少し怯えた表情ながらも、心からの感謝を込めてユイに駆け寄る。シルヴァとノクスも、心配そうにユイの足元にすり寄ってきた。

「…悪くない判断だった」

それまで黙って周囲を警戒していた鬼神 龍魔呂が、静かにユイの前に立った。彼はユイの手にあるボウガンと、彼女の顔を交互に見つめると、短く、しかしはっきりとした口調で言った。

「あの状況で、よくやった。次も、ああやって仲間を守れ」

それは、彼にしては珍しい、明確な称賛と信頼の言葉だった。

仲間たちからの言葉、特に鬼神 龍魔呂からの意外な評価に、ユイの心の中で揺れていた葛藤は、仲間を守れたという確かな手応えと、ささやかな自信へと変わり始めていた。

「は、はい…! わたくし、もっともっと練習して、必ず皆さんのお役に立てるように頑張ります!」

彼女は力強く頷き、その潤んだ瞳には、新たな決意の光がはっきりと宿っていた。もう、ただ守られるだけの存在ではない。自分にも、仲間を守る力があるのだと。

短い休息と、ダイヤによる戦闘後の素材回収(「こいつらの羽根、軽いし丈夫だから矢羽には最適なのよね。爪も研げばそれなりになるし…ま、大した金にはならないけど」とぼやきながらも手際が良い)を終え、一行は再び「風切り谷」へと続く険しい山道を踏み出した。

ユイは、ダイヤから正式に譲り受けた(というより、半ば押し付けられた?)ボウガンをしっかりと背負い、その足取りは以前よりも心なしか力強い。ダイヤは手に入れた素材で懐が少しだけ温かくなったのか(あるいは、ユイの成長が嬉しいのか)、珍しく鼻歌交じりだ。ダイチは、ユイの勇姿を思い出し、「僕もいつか、ユイさんみたいに誰かを守れるようになりたいな」と、新たな目標を胸に抱いていた。鬼神 龍魔呂は、先頭を歩きながらも、背後の仲間たちの気配に、ほんの少しだけ意識を向けていたかもしれない。ユイの放った矢の正確さ、そして彼女の内に秘めた強さに、彼もまた何かを感じ取っていた。

やがて、道はさらに険しくなり、谷底から吹き上げてくる風が一層その勢いを増してきた。ヒューヒューと鳴る風の音に混じって、遠くから、巨大な鳥の鳴き声のようなものが、風に乗って微かに聞こえてくる。

「……どうやら、いよいよ目的地が近いようね」

ダイヤが、鋭い眼光で前方の険しい山並みを見据えながら呟いた。

一行の間に、新たな、そしてより強大な敵との戦いを予感させる緊張感が、静かに走り始めていた。

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