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鬼神と月兎  作者: 月神世一


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62/63

ep 62

第二十六章:空からの襲撃、初めての矢

ロック・グリフォンが巣食うという「風切り谷」を目指し、一行は険しい山道を進んでいた。両側は切り立った岩壁が迫り、見上げれば空が細く見えるような場所だ。足場も悪く、自然と一行の警戒心も高まっていた。

その時だった。

「キィィィーーーッ!!」

「キシャーーーッ!!」

甲高く、耳障りな鳴き声が、谷間に反響した。ハッと見上げると、上空を十数体の影が旋回している。鷲のような翼を持つが、その顔は醜い老婆のようで、手足には猛禽類のような鋭い鉤爪がきらめいている――凶暴な飛行魔物、ハーピーの群れだ!

「ハーピー!? まずいわね、こんな場所で!」

ダイヤが即座にレイピアとバックラーを構え、金色の闘気を立ち昇らせる。

「ユイ、ダイチ! そこの岩陰へ隠れろ! シルヴァ、ノクス、二人を守れ!」

鬼神 龍魔呂が鋭く指示を飛ばすと同時に、地面を強く蹴って跳躍! 空中に躍り出て、急降下してくるハーピーの一体に闘気を纏った拳を叩き込んだ!

戦闘開始!

鬼神 龍魔呂は空中を自在に跳び回り、ハーピーたちを次々と屠っていく。闘気を纏った拳打や蹴りが炸裂し、あるいは指先に闘気を込めた指弾が正確にハーピーの心臓や頭部を貫き、撃ち落としていく。彼の対空戦闘能力は凄まじく、ハーピーたちはその動きに翻弄されるばかりだ。

地上ではダイヤが空を見上げ、襲いかかってくるハーピーを迎撃する。レイピアから放たれる闘気の斬撃が空を切り、投げナイフがハーピーの翼を狙う。時にはバックラーで鉤爪を受け止め、カウンターで撃退する。しかし、数が多く、動きも素早いため、全てを捌ききるのは難しい。

「龍魔呂様! ダイヤさん! 右上から三体、来ます!」

岩陰に隠れたユイが、優れた聴覚で敵の位置を的確に伝え、二人をサポートする。ダイチはシルヴァとノクスに守られながら、固唾を飲んで戦況を見守っていた。

二人の圧倒的な戦闘力で、ハーピーの数はみるみる減っていった。大勢が決したかに見えたその時、ダイヤの投げナイフで翼を傷つけられた一匹のハーピーが、憎悪に満ちた叫び声を上げながら、よろめきつつも戦線を離脱し、上昇していった。鬼神 龍魔呂もダイヤも、残りのハーピーの掃討に集中しており、その一匹にまで注意を払う余裕はなかった。

「ふぅ、大体片付いたかしら…」

ダイヤが最後の一体を撃ち落とし、息をついた瞬間だった。

「危ないっ!!」

逃げたはずのハーピーが、空中で大きく旋回すると、憎悪に燃える赤い目で一直線に岩陰のダイチを捉え、猛スピードで急降下してきたのだ! その狙いは明らかに、無防備に見える少年とその仲間(竜)! 鋭く尖った鉤爪が、ダイチの頭上へと迫る!

「ダイチ様っ!」

「ボウヤ!!」

ユイとダイヤが同時に叫ぶが、距離がある! シルヴァとノクスが威嚇するように唸り声を上げるが、ハーピーの速度には追いつけない! 鬼神 龍魔呂も気づいたが、間に合うか!?

絶体絶命かと思われた、その刹那。

「させませんっ!!」

ダイチを庇うように、ユイが岩陰から飛び出した。その手には、ダイヤから渡された小型のボウガンが握られている。彼女の瞳には、恐怖の色もあったが、それ以上に、大切な仲間を守るという強い決意が宿っていた。震える手で、しかし必死に狙いを定め、彼女は引き金を引いた!

ヒュッ!

放たれた矢(まだ練習用の、先端が丸められたものかもしれない)は、決して速くはなかった。狙いも正確ではなかったかもしれない。しかし、ダイチを守りたいというユイの強い、純粋な想いが、奇跡を呼んだかのようだった。

矢は、まるで吸い込まれるように、急降下してくるハーピーの剥き出しの眼球の一つに、深々と突き刺さった!

「キィィィィギャアアアアアアアアアッッ!!!!」

急所を射抜かれたハーピーは、耳をつんざくような、これまでで最もけたたましい断末魔の叫びを上げた。バランスを完全に失い、錐揉みしながら墜落し、ダイチたちのすぐ目の前の岩肌に激突して、動かなくなった。

一瞬の静寂。

ダイヤも、鬼神 龍魔呂も、そしてダイチも、目の前で起こった出来事に、ただ呆然としていた。

最初に我に返ったのはダイチだった。

「ユ、ユイさんっ! すごい! やったんだね! ありがとう!」

彼は安堵と興奮、そして感謝の気持ちでいっぱいになり、ユイに力強く抱きついた。シルヴァとノクスも、「きゅるる!」「グルル!」と喜びの声を上げる。

「だ、大丈夫ですか、ダイチ様…? よかった、本当に……」

ユイはダイチを抱きしめ返し、安堵の息をついた。しかし、その手はまだボウガンを握りしめたまま、小さく震えていた。初めて自らの手で敵を仕留めた衝撃。しかし、それ以上に、ダイチを守れたという事実と、自分にも戦う力があるのだという確かな手応えが、彼女の心を強く満たしていた。

「やるじゃないの、ユイちゃん!」

ダイヤが駆け寄り、驚きと称賛の表情でユイの肩を叩いた。「まさか、あんたが仕留めるとはね! ナイスショットよ! 見直したわ!」

鬼神 龍魔呂も、黙ってユイと彼女の手にあるボウガンを一瞥した。その表情は読み取れないが、彼の纏う空気がほんの少しだけ和らいだように見えた。彼女の予想外の活躍と成長を、彼もまた認めているのかもしれない。

ユイは、仲間たちの言葉と、ダイチの温もりを感じながら、震える手を抑え、しっかりと前を見据えた。彼女はもう、ただ守られるだけの存在ではない。大切な仲間と共に、この厳しい世界で戦っていく覚悟が、その瞳にはっきりと宿っていた。

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