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鬼神と月兎  作者: 月神世一


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ep 61

第二十五章:月下の訓練、新たな矢

ロック・グリフォンが巣食うという北東山脈を目指す旅は、険しい山道へと差し掛かっていた。日が暮れ、一行は森の中に手頃な開けた場所を見つけ、キャンプを張ることにした。ダイチが(ダイヤの助言を受けつつ)作った温かいスープとパンで夕食を済ませ、焚き火の周りでそれぞれが休息を取っている。

ダイチはシルヴァとノクスと共に、焚き火のそばで丸くなってうとうとし始めている。鬼神 龍魔呂は、少し離れた木の幹に背を預け、夜の森の気配に意識を集中させていた。ダイヤは、愛用のレイピアとバックラーの手入れを入念に行っている。その隣で、ユイは昼間に採取した薬草を整理していたが、ふと自分の非力さを思い、小さくため息をついた。

「(わたくしも、回復や索敵だけでなく、もっと直接的に皆さんの力になれたら…)」

そんなユイの心の揺れを敏感に感じ取ったのか、あるいは単に手入れを終えて手持ち無沙汰になったのか、ダイヤが声をかけた。

「どうしたのよ、ユイちゃん。溜息なんかついちゃって」

「あ、いえ…その、わたくしも何か、皆さんの戦いの助けになれるようなことがあれば、と思いまして…」

ユイは少し恥ずかしそうに俯く。

「ふーん」ダイヤはユイの言葉を聞くと、少し考える素振りを見せた。「あんたには回復っていう大事な役目があるんだから、無理する必要はないと思うけど…まあ、でも、いざという時に自分の身を守れる手段があるに越したことはないわね」

彼女はポンと手を打った。「そうだわ! あんたにピッタリの武器があるかもしれない!」

ダイヤは、おもむろに腰につけた魔法収納袋(見た目は古びたポーチだが、中は広いらしい)をごそごそと漁り始めた。そして、中から一丁の、小型で軽量なボウガンを取り出した。木の部分は滑らかに磨かれ、金属部分には細かな装飾が施されている。使い込まれてはいるが、手入れは行き届いているようだ。

「これなら、あんまり力もいらないし、後方からでも扱えるんじゃない? 私が昔、偵察任務とかで使ってたやつだけど、軽いし、扱いやすいわよ」

ダイヤはそう言って、ボウガンをユイに手渡した。

「えっ、これをわたくしに…?」

ユイは驚いて目を丸くする。

「まあ、貸してあげるだけよ!」ダイヤは少し照れたように付け加える。「せっかくだから、使い方、教えてあげるわ。立って」

ダイヤはユイを促し、少し開けた場所へ移動する。そして、ボウガンの構造、弦の安全な張り方、矢(練習用の軽いもの)の装填方法、そして狙いのつけ方まで、ウェポンズマスターらしく、的確かつ丁寧に説明し始めた。

「いい? まず構える時は、しっかり肩に当てて固定すること。狙う時は、片目を瞑って、的と照準を一直線に…そう。そして引き金を引く時は、絶対にぶれないように、そっと…」

ユイは真剣な表情でダイヤの言葉に耳を傾け、教わった通りにボウガンを構えてみる。最初は腕が震え、狙いも定まらなかったが、ダイヤの的確なアドバイスを受けながら、近くの太い木の幹に向かって何度か矢を放つうちに、少しずつ様になってきた。矢が、カン、と音を立てて幹に当たるようになる。

「お、なかなか筋がいいじゃないの、ユイちゃん」ダイヤが少し感心したように言う。「あんた、意外と集中力あるのね。これなら、練習すればすぐに使いこなせるようになるかもよ」

「本当ですか!? わたくし、頑張ります!」ユイの顔がぱっと輝いた。自分にも攻撃手段が持てるかもしれない、仲間たちの役に立てるかもしれない、という期待が彼女を満たす。

「ふふ、その意気よ」ダイヤは満足そうに頷くと、ユイの頭を優しく撫でた。「ま、いざとなったら、この私がしっかりカバーしてあげるから、心配しないで練習しなさい」その声と眼差しは、普段の彼女からは想像できないほど温かかった。

ダイチは、いつの間にか目を覚まし、シルヴァとノクスと一緒に、二人の練習風景を興味深そうに眺めていた。「ユイさん、かっこいい!」「(シルヴァ)ユイも戦うの?」「(ノクス)…後方支援にはなるかもしれんな」

鬼神 龍魔呂も、遠くの闇の中から、静かにその様子を見守っていた。パーティー全体の戦力が向上することは、彼にとっても望ましいことだろう。

「よし、今日のところはこのくらいね」ダイヤが練習を切り上げる。「そのボウガンは、あんたに貸しといてあげるわ。ちゃんと手入れするのよ! それと、絶対に人に向けたり、無闇に撃ったりしないこと! いいわね?」

「はい! ありがとうございます、ダイヤさん! 大切にします!」

ユイは嬉しそうに頷き、自分の新たな武器となるボウガンを、ぎゅっと胸に抱きしめた。月兎族の癒やし手は、仲間を守るための新たな矢を手に入れたのだ。

焚き火の明かりが揺れるキャンプの夜。それは、ユイにとって新たな決意の夜となり、そして仲間たちの絆がまた少し深まった夜となった。

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