ep 58
『鬼神と月兎』 第二十二章:再び、大都市へ
カナン村での短い、しかし印象深い滞在を終え、鬼神 龍魔呂たち一行は再びシルバリアへと続く街道を歩んでいた。道中、いくつかの小さな村や集落を通り過ぎ、時にはダイヤが持ち前の鑑定スキルで旅商人から掘り出し物(に見せかけたガラクタ?)を掴まされそうになったり、ユイが珍しい薬草を見つけて採取したり、ダイチがシルヴァとノクスと共に飛行練習(まだ低空飛行だが)をしたりと、比較的穏やかな日々が続いた。鬼神 龍魔呂は、そんな仲間たちの様子を静かに見守りながらも、カナン村での出来事の後、ダイチとの間には依然として微妙な距離感が残っていた。
そして、カナン村を出発してから数日後の昼過ぎ。一行の目の前に、再びあの巨大な城壁と無数の塔がそびえ立つ、大都市シルバリアの威容が現れた。
「着いたー! シルバリアだ!」
ダイチが声を上げる。初めて訪れた時のような圧倒される感じはなく、彼の表情には安堵と共に、これから始まる活動への期待が浮かんでいた。シルヴァとノクスも、主人の気持ちを察しているのか、少し興奮したように喉を鳴らしている。
「ふぅ、やっと着いたわね」
ダイヤは軽く伸びをしながら、街の門へと視線を向けた。「さあ、まずは情報収集と依頼探しよ! カナン村の報酬も、あの大剣のメンテ代でかなり消えちゃったんだから!」彼女の金策へのモチベーションは常に高い。
シルバリア西門は、昼間ということもあり、以前にも増して多くの人々や馬車でごった返していた。しかし、門を守る衛兵たちは、特徴的な一行(特に片翼ずつの幼竜を連れた少年、そしてただならぬ気配の黒髪の男と金髪の女剣士)を覚えていたようだ。簡単な身分確認(ダイヤのギルドカード提示)と、「例のゴーレム討伐の冒険者だな。ご苦労だった」という短い言葉だけで、彼らはスムーズに街の中へと通された。数日の間に、彼らの噂はギルド内だけでなく、衛兵たちの間にも多少は広まっていたのかもしれない。
再び足を踏み入れたシルバリアの街。その活気と喧騒は変わらないが、一行の受け止め方は前回とは少し違っていた。ダイチはもうキョロキョロと見回すばかりではなく、何かを探すように真剣な目で街並みを見ている。ユイは人混みの中でダイチがはぐれないよう気を配りながら、薬屋や古書店がありそうな通りに目星をつけているようだ。ダイヤは早速ギルドの方角を確認し、「まずは腹ごしらえ? いや、やっぱり先にギルドかしら…」と悩んでいる。
鬼神 龍魔呂は、相変わらず無言で周囲を観察しているが、その視線はより具体的になっていた。武器屋、防具屋、そして情報が集まりそうな酒場や裏路地…。彼はこの大都市の中から、ダイチの印、魔王軍、そして自身の過去にも繋がるかもしれない「何か」を探し出そうとしているのかもしれない。カナン村でのダイチの言葉は、彼の心に無視できない問いを投げかけ続けていた。
「ひとまず、前回と同じ宿『銀竜亭』に戻りましょ。荷物を置いて、作戦会議よ」
ダイヤが現実的な提案をし、一行は頷いた。カナン村での経験は、彼らを少しだけ成長させ、仲間としての形をより明確にしていた。大都市シルバリアを舞台に、彼らの本格的な情報収集と、次なる冒険(あるいは依頼)が、いよいよ始まろうとしていた。一行は、それぞれの思いを胸に、活気あふれる大通りを宿へと向かって歩き出した。




