ep 55
『ブレイブ勇機!鬼神龍魔呂伝』
第十八話:姫君の憂鬱と、密かなる宝石
地下施設での生活が続き、ルミナスは喫茶店でのアルバイトにも少しずつ慣れてきていた。最初は戸惑うことばかりだったが、持ち前の真面目さと、時折見せる育ちの良さからくる天然な仕草が、かえってお客さんや店長に気に入られているようだった。
「はい、お待たせいたしました。クリームソーダですわ」
少しぎこちないながらも、笑顔で飲み物を運ぶ。自分で働き、誰かの役に立てる(たとえ小さなことであっても)という経験は、彼女にささやかな自信を与えてくれていた。
そして、待ちに待った初めての給料日。震える手で受け取った、決して多くはない金額。しかし、それは彼女にとって、どんな宝石よりも価値のあるものに感じられた。
(これで…ダイチくんにお礼ができるわ!)
彼女は真っ先に、いつも自分を励ましてくれる小さな少年のことを思い浮かべた。
バイトの後、ルミナスはダイチを誘って、町のケーキ屋さんに立ち寄った。
「好きなのを選んでいいのよ。今日は私のおごりですわ!」
「えっ、本当!? やったー!」
ダイチは目を輝かせ、ショーケースの前で真剣に悩み始める。その無邪気な姿に、ルミナスは自然と笑みがこぼれた。
結局、二人は公園のベンチで、買ったばかりのショートケーキを並んで食べることにした。
「おいしい! ルミナお姉ちゃん、ありがとう!」
口の周りをクリームだらけにしながら、ダイチは満面の笑顔だ。
「ふふ、どういたしまして。いつも応援してくれて、ありがとうね、ダイチくん」
ルミナスも自分のケーキを一口食べ、幸せそうなダイチの顔を見て、心が温かくなるのを感じた。この少年の笑顔が、今の彼女にとって何よりの宝物だった。二人は、学校のこと、花のこと、そしてラビーク(巨大な兎ペット、ということになっている)の面白い仕草のことなどを、日が傾くまで話し込んだ。それは、彼女が地球に来てから最も穏やかで、幸せな時間だった。
しかし、その笑顔の裏で、ルミナスの心には常に重い影が付きまとっていた。
(私だけ…こんな風にのんきにしていて、本当にいいのかしら…)
たつまろは、多くを語らないが、時折見せる疲労や、纏う空気の変化から、彼が自分たちの知らないところで過酷な戦いを続けていることは察せられた。ダイヤさんも、憎まれ口を叩きながらも、必死に情報を集め、機体の整備をしている。ラビークだって、本当は戦闘ロボットなのに、姫である自分を守るために、そして今はあのたつまろという人のために、傷つくことも厭わずに戦ってくれている。
(私だけが、守られて、何もできずにいる…)
故郷ルミナーミのこと、行方不明の両親のこと、そして、自分たちのせいで危機に晒されているかもしれない、この地球のこと。考えるほどに、自分の無力さが、姫という立場でありながら何もできない不甲斐なさが、彼女の心を締め付けた。
(私だって…戦いたい。皆の役に立ちたい…!)
そんな思いを抱えながら、ルミナスは少し沈んだ気持ちで地下施設へと戻った。ドックでは、ちょうどダイヤが愛機の一つ、【エメラルド・フェザー】の翼の調整を行っているところだった。
「…あら、姫様。なんだか浮かない顔しちゃって。せっかくのバイト代、パーッと使ってきたんじゃないの?」
ダイヤは、工具を持ったまま、ルミナスの様子に気づいて声をかけてきた。その口調は相変わらず軽いが、目には鋭い観察力が光っている。
「…ダイヤさん」
ルミナスは、最初は話すのをためらった。この掴みどころのない賞金稼ぎに、自分の悩みを打ち明けていいものか。しかし、彼女の真っ直ぐな(ように見える)視線に、つい本音がこぼれた。
「私…自分が無力なのが、悔しいんです。皆さんが命懸けで戦っているのに、私はただ守られているだけで…何もできなくて…」
声が震える。
「私だって…少しでも、皆さんの力になりたいのに…!」
それを聞いたダイヤは、一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐにニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「ふーん…力不足がお悩み、と。お姫様にも、そんな殊勝な気持ちがあったのねぇ」
彼女は工具を置くと、ルミナスに向き直った。
「まあ、確かに今のあんたじゃ、足手まといにしかならないかもね。ラビークの本来のパイロットだったとしても」
「っ…!」ルミナスは言葉に詰まる。
「でもまあ…」ダイヤは、もったいぶるように続けた。「本気で力が欲しいって言うんなら…試してみる? 私のとっておきの“秘蔵っ子”」
彼女は、自分の旗艦「ジュエル・キャリバン」が停泊している(であろう)方向を親指で示しながら、意味深に言った。
「…私のコレクションの中に、とびっきりの**『真珠』**が、あるんだけど?」
「真珠…?」
ルミナスは、ダイヤの言葉の意味を測りかね、ただ目を瞬かせた。
「そう、パールよ」ダイヤは悪戯っぽく笑う。「まあ、あんたみたいな深窓の令嬢に扱える代物かどうかは、知らないけどね?」
ダイヤの口から語られた、新たなロボットの存在。それは、ルミナスの未来を、そしてこの星の運命をも左右するかもしれない、未知の可能性の扉だった。
第十八話 了




