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鬼神と月兎  作者: 月神世一


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52/63

ep 52

『鬼神と月兎』 第二十章:月と少年の誓い

カナン村での二日目の夜。仲間たちとの夕食と語らいの後、ダイチはユイに促され、宿屋の自室のベッドに入っていた。しかし、昼間の出来事――オークとの戦い、村人たちの感謝、そして仲間たちとの交流――が頭の中を巡り、なかなか寝付けずにいた。彼はベッドの上に起き上がり、窓の外に広がる、星々が瞬く夜空と、静かに輝く月をぼんやりと眺めていた。足元では、シルヴァとノクスがすうすうと穏やかな寝息を立てている。

その時、部屋の戸口に静かな人影が現れた。音もなくそこに立っていたのは、鬼神 龍魔呂だった。彼は眠っているか確認しに来たのか、あるいは何か別の用があったのか。

「……まだ起きていたのか」

低い、抑揚のない声が静寂を破った。

「あ、たつまろさん…」

ダイチは少し驚いて振り返る。

鬼神 龍魔呂は部屋には入らず、戸口に寄りかかったまま、月明かりに照らされるダイチをじっと見つめた。そして、唐突に問いかけた。

「小僧。お前は……これからどうしたい? 何に、なりたい」

それは、普段の彼からは想像もできないような、真っ直ぐな問いだった。

ダイチは一瞬戸惑ったが、再び窓の外の月を見上げると、ゆっくりと、しかし確かな口調で語り始めた。

「僕ね、村のおじいちゃんによく教えてもらった詩があるんだ」

彼の声は、夜の静寂に優しく響く。

「『月は迷わない。暗闇の中で天高く昇り、輝く』」

「『でも、人は自分では輝けない。前に進む事ができなくて、暗闇の中で迷って、怯えて、泣いてしまう』」

ダイチは言葉を区切り、月を見つめる。その瞳は、星の光を映してきらめいていた。

「『だからね、月はずっと変わらずに、月を見る人に光を与えて、道に迷わないように、本当の自分でいられるように、優しく照らし続けてくれるんだ』って」

そこまで言うと、ダイチは振り返り、戸口に立つ鬼神 龍魔呂を真っ直ぐに見据えた。その小さな身体には、彼が持つ「勇者の印」の輝きにも似た、強い意志の光が宿っているように見えた。

「僕はね、そんな月みたいになりたいんだ。すごく強いわけじゃないし、きっとこれからもたくさん失敗すると思う。でも、迷っている人や、困っている人、悲しんでいる人の心を、そっと照らしてあげられるような…そんな存在になりたいんだ」

そして、彼は少しだけ息を吸い込み、勇気を振り絞るように、はっきりと言葉を続けた。

「だからね、僕は、たつまろさんも助けたいんだ」

「―――!?」

その言葉は、予期せぬ鋭い刃のように、鬼神 龍魔呂の心の最も深い部分を貫いた。「助ける」? この俺を? 長い間、誰の助けも借りず、己の力だけを信じて血と硝煙の中を生きてきた彼にとって、それは理解を超えた、しかし無視できない響きを持っていた。彼の無表情が、ほんの一瞬だけ、確かに揺らいだ。驚き、戸惑い、そして心の奥底にかすかに灯った、何か温かいものへの反発。

彼は、込み上げてくる感情を押し殺すように、忌々しげに舌打ちをした。

「チッ……。くだらんことを言うな。さっさと寝ろ、ガキ」

それだけを吐き捨てるように言うと、鬼神 龍魔呂はダイチの返事も待たずに踵を返し、足早にその場から立ち去ってしまった。まるで、何かから逃げるように。

ダイチは、去っていく彼の背中を、少しだけ寂しそうな、しかしどこか満足げな、複雑な表情で見送った。そして、再び窓の外の月を見上げると、静かに布団を被った。

静かな夜の闇の中、少年の真っ直ぐな想いは、確かに鬼神の心に届いていた。それがどのような変化をもたらすのか、今はまだ分からない。だが、二人の間に流れる空気は、確実に変わり始めていた。月だけが、その全てを知っているかのように、カナン村の夜を静かに照らし続けていた。

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