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鬼神と月兎  作者: 月神世一


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48/63

ep 48

『鬼神と月兎』 第二十章:金色のウェポンズマスター

カナン村での穏やかな午後。鬼神 龍魔呂は単独でさらに遠方の偵察へ、ユイは村の診療所で薬の調合の手伝いと、それぞれ別行動を取っていた。ダイチはシルヴァ、ノクスと共に宿屋の中庭で過ごしていたが、少し手持ち無沙汰な様子だった。

そこへ、武器の手入れを終えたダイヤがやってきた。

「あらボウヤ、暇そうね。…ちょうどいいわ、ちょっと付き合いなさい」

「え? どこか行くの、ダイヤさん?」

「んー、そうねぇ…ちょっとした『実地訓練』ってとこかしら?」

ダイヤは悪戯っぽく笑う。(本当は、高く売れそうな薬草か鉱石でもないかと、村の周りを探索したかっただけなのだが、ダイチを誘う口実としては悪くないだろうと思ったのだ)

「村の周りの安全確認も兼ねて、少し散歩するわよ。もちろん、あなたたち(シルヴァとノクスを指す)も一緒よ」

「ほんと!? やったー!」

ダイチは喜んで立ち上がり、シルヴァとノクスも嬉しそうにダイチの後に続く。

四人はカナン村の門を抜け、村の北側に広がる森へと続く小道へと入っていった。ダイヤは先頭を歩き、常に周囲への警戒を怠らない。その後ろを、ダイチがシルヴァ、ノクスと楽しそうに話しながらついていく。

「見て、ノクス! キラキラした石ころ見つけたよ!」

「(ノクス)…ただの石英だ」

「シルヴァ、あのお花、なんて名前かな?」

「(シルヴァ)うーん、わかんない! でもいい匂い!」

時折聞こえてくるダイチの無邪気な声や笑顔に、ダイヤは(バレないように)ちらちらと視線を送り、口元を緩ませていた。

(まったく、ボウヤは無邪気なんだから…でも、こういう時間が…悪くないわね…)

そんなことを考えていた、その時だった。

ガサガサッ! ザザッ!

前方の茂みが激しく揺れ、低い唸り声と共に、鋭い牙と赤い目を持つ猪型の魔物「レイザーボア」が、土煙を上げて飛び出してきた! しかも、一匹だけではない。次々と茂みから飛び出し、その数は瞬く間に五、六体に膨れ上がった。明らかに獲物(一行)を見つけて興奮している。

「チッ! 面倒なのがいるじゃない!」

ダイヤは即座に反応し、ダイチを自身の背後にかばうように立ち塞がった。

「ボウヤは下がってなさい! シルヴァ、ノクス、ボウヤをしっかり守るのよ!」

彼女はレイピアとバックラーを構え、その身に金色の闘気を立ち昇らせた。その瞳は、先ほどまでの穏やかさから一転、鋭いウェポンズマスターのものへと変わっている。

「ブゴォォォッ!!」

レイザーボアの群れが、一斉にダイヤめがけて突進してくる!

「甘く見ないことね!」

ダイヤは単独で、しかし臆することなく群れに立ち向かう。

先頭の一匹の突進を、バックラーで巧みに受け流すと同時に、体勢を崩したその脇腹へ、闘気を纏ったレイピアを深々と突き刺す!「まずは一匹!」

続け様に襲い来る二匹目の牙を紙一重で躱し、すれ違い様に懐から取り出した紐付き投げナイフを放つ! ナイフは正確に魔物の後脚に突き刺さり、さらにダイヤが紐(魔法の糸)を引くことで、その動きを封じた!

囲まれそうになると、今度は伸縮自在の魔法棍を瞬時に伸ばし、それを支点にアクロバティックに跳躍して距離を取る。そして、着地と同時に魔法棍を振り回し、広範囲の敵をまとめて打ち据えた!

「すごい……!」

後方で見守っていたダイチは、ダイヤの華麗で多彩な戦いぶりに、ただただ目を奪われていた。「ダイヤさん、一人であんなにたくさんと…! かっこいい…!」

「ダイヤ、がんばれー! やっちゃえー!」シルヴァが精一杯応援の声を上げる。ノクスは黙って戦況を見つめ、ダイチのすぐそばで警戒を続けている。

「まだまだ!」

ダイヤは闘気をさらに高め、投げナイフを回収すると、今度はそれを複数同時に操り、レイザーボアたちの急所を的確に狙っていく。バックラーで攻撃を防ぎ、レイピアで反撃し、魔法棍で薙ぎ払い、投げナイフで牽制する。まさに変幻自在。金色の闘気が彼女の動きに合わせて美しい軌跡を描き、まるで戦場で舞う踊り子のようだった。(ダイチに見られていると思うと、いつもより少しだけ動きが派手になっているかもしれない、と彼女は内心で思った)

やがて、ダイヤの的確な攻撃によって、レイザーボアたちは次々と戦闘不能になっていく。彼女は必ずしも命を奪うことはせず、深手を負わせて戦意を喪失させたり、気絶させたりして、群れを無力化していった。最後の一匹が悲鳴を上げて森の奥へと逃げていくと、ようやく戦闘は終わりを告げた。

「ふぅ……終わった、わね……」

ダイヤはレイピアを鞘に納め、額の汗を手の甲で拭った。肩で息をついているが、その表情には確かな達成感が浮かんでいる。周囲には、倒れたレイザーボアが数体転がっていた。

「ダイヤさんっ!!」

ダイチが目をキラキラさせながら駆け寄ってきた。

「すごかった! 本当にすごかったよ! 一人で全部やっつけちゃうなんて! 強くて、綺麗で、すっごくかっこよかった!!」

その純粋で、最大級の賛辞。憧れの眼差し。

「ふ、ふんっ!」

ダイヤは、ダイチの言葉に心臓が跳ね上がるのを感じ、それを誤魔化すようにわざと偉そうに胸を張った。

「こ、これくらい、私にかかれば朝飯前よ! ウェポンズマスターをナメないでよね!」

しかし、その顔は真っ赤に染まっており、照れているのは明らかだった。

(き、綺麗で、かっこよかった…ですって…!? こ、このボウヤ、意外と口が上手いじゃないの……!)

彼女は内心で嬉しい悲鳴を上げていた。

「さ、さあ! もうこんな所にいないで、とっとと村に戻るわよ! 夕飯の時間に遅れるわ!」

ダイヤは照れ隠しに早口でまくし立てると、ダイチの手を(今度はかなり意識的に)掴み、少し乱暴に引っ張るようにして村への道を歩き出した。

「わっ、待ってよダイヤさーん!」

ダイチは、手を引かれながらも、嬉しそうにダイヤの後をついていく。彼の目には、ダイヤが今までで一番、輝いて見えていた。

シルヴァとノクスも、誇らしげな主人と、少し様子のおかしい

ダイヤの後を追いかける。森の中の小さな冒険は、二人の距離をまた少しだけ縮めたようだった。

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