ep 45
『鬼神と月兎』 第十九章:魂の火花、鬼神と金色の閃光
カナン村での穏やかな朝。ダイチがユイやシルヴァ&ノクスに見守られながら剣の稽古に励んでいると、その隣で入念な準備運動を終えたダイヤが、鬼神 龍魔呂に向き直った。その金色の瞳には、昨日とは違う、真剣な闘志が宿っている。
「ねぇ、ミスター鬼神」
彼女の声には、強い意志が込められていた。
「もう一回、手合わせをお願いできないかしら? 昨日のお遊びみたいなのじゃなくて…もう少し、本気で。あなたの本当の力、その一端でもいいから、この身で感じてみたいのよ。私も、もっと強くならなきゃいけないから」
強い相手と戦うことで自身を高めたい――ウェポンズマスターとしての渇望が、彼女を突き動かしていた。
鬼神 龍魔呂は、ダイヤの瞳の奥にある覚悟と渇望を感じ取った。彼はしばし黙って彼女を見つめた後、ふっと口元に獰猛な、しかしどこか楽しげな笑みを浮かべた。
「…いいだろう。受けて立つ。ただし、言っておくが、俺は手加減というものを知らんぞ。後悔するなよ」
「望むところだわ!」
ダイヤの顔にも、挑戦的な笑みが広がる。
二人は、村人たちの邪魔にならないよう、昨日と同じ村外れの開けた広場へと移動した。ユイとダイチ、そしてシルヴァとノクスも、固唾を飲んで二人を見守っている。
「始めましょうか」
ダイヤは言うと、レイピアとバックラーを構え、指にはめた指輪を輝かせた。眩い金色の闘気のオーラが、炎のように彼女の全身と武器を包み込む!
「…面白い」
鬼神 龍魔呂も応じるように、黒い指輪から荒々しい赤黒い闘気を立ち昇らせた。二つの強大なオーラがぶつかり合い、広場の空気がビリビリと震え、緊張感が極限まで高まる!
「はあっ!」
先に仕掛けたのはダイヤだった! 金色の闘気を足に集中させ、爆発的な加速で鬼神 龍魔呂に肉薄! レイピアから放たれる高速の連撃は、黄金の閃光となって襲いかかる!
鬼神 龍魔呂はそれを、赤黒い闘気を纏った腕や体捌きで捌いていく。剣と拳が、盾と蹴りが、闘気を纏って激しく打ち合わされ、火花のようなエネルギーが散る!
「遅いわね!」
ダイヤはバックラーで鬼神 龍魔呂の拳を受け流すと同時に、懐から異世界風の閃光珠(光苔の胞子嚢)を投げつけた! 強烈な光が炸裂し、一瞬、鬼神 龍魔呂の視界を奪う!
「もらった!」
ダイヤはその隙を見逃さず、レイピアに金色の闘気を凝縮させ、衝撃波として放つ!
「ゴールド・ソニック!」
金色の衝撃波が鬼神 龍魔呂に迫る! しかし――
「――甘い」
彼は闘気で目を保護しており、視界は奪われていなかった。赤黒い闘気を両手の前に集中させ、壁を作り出す!
「鬼神流・不動壁!」
金色の衝撃波は、赤黒い闘気の壁に阻まれ、霧散した。
「なっ!?」
驚愕するダイヤ。その一瞬の隙を突き、鬼神 龍魔呂が動く!
「鬼神流・疾風歩!」
彼の姿が掻き消えたかと思うと、ダイヤの背後に回り込んでいる! そして、赤黒い闘気を極限まで集中させた拳を、無防備な背中へと叩き込もうとする!
「鬼神流・剛滅拳!」
「させるもんですか!」
ダイヤは咄嗟に振り返り、バックラーで拳を受け止めようとするが、間に合わない! と思った瞬間、彼女は闘気を爆発的に放出してカウンターを狙った!
「リフレクト・バースト!」
鬼神 龍魔呂の拳とダイヤの闘気が激突し、凄まじい衝撃波が周囲に拡散する! ダイヤは吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直し、着地と同時に距離を取る。
「…はぁ…はぁ…やっぱり、一筋縄じゃいかないわね…!」
ダイヤは息を切らせながらも、その瞳は爛々と輝いていた。強い相手との全力の戦いが、彼女の闘争心を燃え上がらせている。
(面白い…! こいつ、俺の動きに食らいついてくる…! しかも、闘気の練度も悪くない…!)
鬼神 龍魔呂もまた、内心で高揚感を覚えていた。ダイヤの予想以上の実力と気迫が、彼の中に眠っていた純粋な「武」への喜びを呼び覚ましていたのだ。その口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいる。
「まだまだこれからよ!」
ダイヤは再び構え直し、今度は複数の光の剣を召喚する!
「降り注ぎなさい! ヘヴンリー・ブレイド!!」
無数の光の剣が、雨のように鬼神 龍魔呂へと襲いかかる!
「…ならば、これでどうだ!」
鬼神 龍魔呂もそれに応え、赤黒い闘気を右拳に再び凝縮させる。それは、アースクェイカーを屠った技。しかし、今度は対人用に、より精密に、より破壊的に調整されている。
「鬼神流――崩芯衝!!」
赤黒い闘気の奔流が、光の剣雨を薙ぎ払いながらダイヤへと迫る!
「くっ…!」
ダイヤは咄嗟にバックラーと闘気で防御壁を展開するが、その圧倒的な力の奔流の前に、防御は粉砕され、彼女の身体は木の葉のように吹き飛ばされた!
「きゃあっ!」
ユイとダイチが悲鳴を上げる。
しかし、吹き飛ばされたダイヤが地面に叩きつけられる寸前、鬼神 龍魔呂は既にその落下地点に移動しており、彼女の首筋に、闘気を消した手刀を寸止めしていた。
「……そこまでだ」
静かな声と共に、激しい手合わせは終わりを告げた。
ダイヤは地面に手をつき、荒い息を繰り返しながら、顔を上げた。全身は汗で濡れ、服も少し破れているが、その表情は悔しさの中にも、どこか清々しい満足感を湛えていた。
「…はぁ…はぁ……完敗、ね。闘気を使っても、今の私じゃ、あなたには全然敵わないみたい…」
彼女は苦笑しながら立ち上がった。
「でも…少しだけ、見えた気がするわ。あなたの強さの、その先にあるものが…。次はもっともっと強くなって、必ずあなたから一本取ってみせるんだから! 覚悟しておきなさいよ!」
ダイヤは闘志をみなぎらせ、鬼神 龍魔呂を真っ直ぐに見据えて宣言した。
鬼神 龍魔呂は、そんな彼女の言葉に、満足げに頷いた。内心の喜びと楽しさが、その態度にわずかに滲み出ている。
「……いつでもかかってこい。お前なら、あるいは――」
彼はそこまで言うと、ふっと表情を戻し、駆け寄ってきたユイとダイチの方へ向き直った。
「たつまろさん、ダイヤさん、すごかった!」「お二人とも、お怪我はありませんか!?」
鬼神 龍魔呂は、心配そうに自分を見上げるダイチの頭を、また無造作にぐしゃっと撫でた。その手つきは、以前よりも少しだけ、自然に見えたかもしれない。
互いの全力をぶつけ合った手合わせは、二人の間にライバルとしての意識と、より強固な仲間としての絆を確かに刻み込んだのだった。




