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鬼神と月兎  作者: 月神世一


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ep 40

『鬼神と月兎』 第十六章:金色の師範

カナン村での穏やかな朝。ダイチは、鬼神 龍魔呂との約束通り、宿屋の中庭で木剣の素振りに励んでいた。昨日教わったばかりの動きはまだ体に馴染んでおらず、ぎこちなさは残るものの、その表情は真剣そのものだ。「えいっ! やあっ!」と小さな掛け声を上げながら、一生懸命に木剣を振るう。その周りでは、シルヴァが楽しそうに飛び跳ね、ノクスは日向で丸くなって昼寝(朝寝?)をしている。

そこへ、自身の武器(主にレイピアとバックラー)の念入りな手入れを終えたダイヤが、腕を組んでやってきた。

「あら、ボウヤ。朝から精が出るじゃないの」

彼女はダイチの素振りを数回、じっと観察した後、ふむ、と顎に手を当てた。

「どれ、ちょっと見せてみなさいよ。ミスター鬼神に教わったんでしょ? どんな無茶苦茶なこと教えられてるか、チェックしてあげるわ」

「あ、ダイヤさん! おはよう!」

ダイチは一旦素振りを止め、ダイヤに向き直る。

「うん、たつまろさんに教えてもらったんだ! でも、まだ全然うまくできなくて…」

「ふーん」ダイヤはダイチの周りをぐるりと歩き、彼の構えや剣の握り方をチェックする。「まあ、基本は悪くないみたいだけど…ちょっと力みすぎね。剣っていうのは、力任せに振り回すんじゃなくて、体全体を使って、しなやかに振るものなのよ」

ダイヤはダイチの隣に立つと、お手本を示すように、近くにあった手頃な木の枝を拾い、それをまるで本物の剣のように軽やかに振ってみせた。その動きは洗練されており、無駄がない。

「いい? 剣の重心を感じて、遠心力を利用するの。腰の回転、足の踏み込み、腕の振り…全部を連動させるイメージよ」

彼女は、鬼神 龍魔呂の感覚的な指導とは違い、具体的な体の使い方や力の流れを、分かりやすい言葉で説明していく。ウェポンズマスターとしての知識の一端だろうか。

「こ、こうかな…?」

ダイチはダイヤの言葉を思い出しながら、再び木剣を振るってみるが、なかなか上手くいかない。

「もう、しょうがないわねぇ」

ダイヤは優しい呆れ顔で笑うと、ダイチの後ろに回り込み、そっと彼の手の上から木剣の柄を一緒に握った。

「いい? こうよ。肩の力は抜いて…脇を締めて…腰を回しながら、剣が自然に円を描くように…そうそう!」

ダイヤはダイチの身体に自分の手を添え、正しい動きを導いてやる。間近で感じるダイヤの温もりと、ふわりと香る彼女の匂いに、ダイチの心臓が少しだけドキドキと速くなる。

一方のダイヤも、ダイチの小さな手を包み込み、その一生懸命な横顔を間近で見ているうちに、自分の心臓も予想外にドキドキしていることに気づいた。

(…って、ち、近いわよ! わ、私、何やってんのよ!? ただの稽古でしょ!?)

内心で慌てふためき、彼女はぱっと手を離した。

「ま、ま、まあ! 今の感じで練習すれば、昨日よりは少しはマシになるんじゃないかしら!?」

少し顔を赤らめながら、早口で言う。

「うん! なんかわかった気がする! ありがとう、ダイヤさん!」

ダイチは素直に喜び、目を輝かせた。そして、教わったことを忘れないうちにと、再び素振りを始める。

「そうそう、その調子!」「今の振り、なかなか良かったわよ!」「もっと腰を使って!」

ダイヤは、先ほどの動揺を隠すように、しかし的確なアドバイスと励ましの言葉をかけ続ける。ダイチが少しでも上達すると、自分のことのように嬉しくなってしまうのを、彼女はもう止められなかった。

その微笑ましい(?)光景を、宿の軒先からユイが穏やかな笑顔で見守っていた。「ダイヤさん、教えるのもお上手なんですね」と感心している。

そして、いつの間にか、近くの木陰には鬼神 龍魔呂の姿もあった。彼は腕を組み、壁に寄りかかったまま、黙って二人の練習風景を見つめている。その表情からは何も読み取れないが、少なくとも、ダイヤの指導に異を唱えるつもりはないようだ。

「はい、今日はこのくらいにしておきなさい。やりすぎは良くないわ」

しばらくして、ダイヤが練習を切り上げた。彼女は自分の水筒を取り出すと、まずダイチに差し出す。

「ほら、ボウヤ。ちゃんと水分補給しなさいよ。汗かいたんだから」

「ありがとう、ダイヤさん!」

ダイチは満面の笑みで水筒を受け取り、おいしそうに水を飲んだ。その無邪気な笑顔が、ダイヤにとってはどんな報酬よりも眩しく感じられた。

(…まったく、世話が焼けるんだから)

ダイヤは心の中で呟きながらも、その口元には確かな笑みが浮かんでいた。

カナン村での穏やかな朝。それは、厳しい旅の中の、ささやかで温かい時間。仲間との交流を通じて、ダイチは少しずつ成長し、ダイヤの心にも新たな感情が芽生え、そして鬼神 龍魔呂もまた、静かにその変化を見守っているのだった。

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