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鬼神と月兎  作者: 月神世一


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39/63

ep 39

『鬼神と月兎』 第十六章:カナン村の昼餉

カナン村に滞在して二日目の昼時。一行は、村での情報収集も一区切りつき、宿屋の中庭で昼食の準備を始めていた。といっても、腕を振るっているのは意外にもダイチだった。彼は村人に分けてもらった新鮮な野菜や、保存食の干し肉、そしてユイが薬草と一緒に持っていた香辛料などを使い、慣れた手つきで調理を進めている。

「へぇ、ボウヤ、あんた料理なんてできたの? 大丈夫なんでしょうねぇ?」

ダイヤが腕を組み、少し疑いの目を向けながら様子を見に来た。しかし、ダイチが手際よく野菜を刻み、鍋の中身を丁寧にかき混ぜているのを見て、少し驚いた表情になる。

「あら、意外と様になってるじゃない。どこで覚えたのよ?」

「えへへ、村にいた時、手伝いをよくしてたから。食べるの好きだし、作るのも好きなんだ!」

ダイチは少し照れながら答える。その一生懸命な横顔に、ダイヤは(またしても)少しだけ胸がキュンとなるのを感じた。

「…まあ、見てるのも暇だし、私も手伝ってあげるわよ」

ダイヤは袖をまくりながら言った。「ほら、何すればいいの? 野菜切りくらいならできるわよ?」

「本当!? ありがとう、ダイヤさん! じゃあ、この根菜を薄く切ってくれるかな?」

「任せなさい!」

ダイヤは張り切って包丁を手に取るが、普段レイピアを握るその手つきは、料理となるとややぎこちない。それでも一生懸命、ダイチに教わりながら野菜を切っていく。

「ちょっと、これでいいわけ?」「うん、上手だよ、ダイヤさん!」「ふ、ふん! これくらい、ウェポンズマスターにかかれば当然でしょ!」

時折、手が触れそうになったり、顔が近づいたりする度に、ダイヤは内心ドキドキしながらも、それを隠すようにぶっきらぼうな態度を取る。ダイチはそんなダイヤの内心など知る由もなく、ただ手伝ってくれることが嬉しいようだ。

「ダイチ様、このハーブを少し入れると、お肉の臭みが消えて、香りも良くなりますよ」

ユイが薬草の知識を活かして、乾燥させたハーブを差し出す。「それと、こっちの葉は少し苦味がありますけど、疲労回復に効くんです」

「ありがとう、ユイさん!」

ダイチはユイのアドバイスも取り入れながら、鍋の中を味見する。「うん、美味しくなってきた!」

その間、シルヴァとノクスは、鍋から漂ってくるいい匂いに誘われて、ダイチとダイヤの足元でそわそわと完成を待っていた。

「ダイチー、まだー? お腹すいたー!」(シルヴァ)

「……いい匂いだ」(ノクス)

シルヴァが待ちきれずに鍋に顔を近づけようとして、ダイヤに「こら、危ないでしょ!」と軽く叱られたりもしていた。

鬼神 龍魔呂は、少し離れた木陰で腕を組み、静かに目を閉じていたが、その鼻が微かにひくついているのを、ユイだけは気づいていた。

やがて、ダイチ特製の「カナン風・野菜と干し肉の具だくさんハーブスープ」と、彼が近くの焚き火で焼いた香ばしいパンが完成した。

「できたよー! みんな、食べよう!」

ダイチの声に、一行はテーブル代わりの大きな切り株を囲むようにして集まった。

木の器によそわれた温かいスープを一口飲んで、まずダイヤが目を見開いた。

「! な、なによこれ…! 素朴だけど、すごく深みのある味…! おいしいじゃない!」

普段は辛口評価の彼女が、素直に褒めた。

「ええ、本当においしいです! 野菜の甘みとハーブの香りが絶妙で…体が温まりますね」

ユイも優しく微笑む。

「うまーい! ダイチ、おかわり!」(シルヴァ)

「……悪くない」(ノクス)

シルヴァとノクスも夢中でスープを飲んでいる。

皆に絶賛され、ダイチは顔を真っ赤にして俯いた。

「えへへ……よかったら、またいつでも作るよ!」

その嬉しそうな、はにかんだ笑顔を見て、ダイヤは自分の胸がまた温かくなるのを感じ、慌ててスープを飲むふりをして顔を隠した。

皆に褒められ、ダイチは顔を真っ赤にして俯いた。

「えへへ……よかったら、またいつでも作るよ!」

その嬉しそうな、はにかんだ笑顔を見て、ダイヤは自分の胸がまた温かくなるのを感じ、慌ててスープを飲むふりをして顔を隠した。

鬼神 龍魔呂は、相変わらず無言でスープを啜っていた。しかし、その食べるペースは明らかにいつもより速く、そしてあっという間に木の器を空にしてしまった。彼はしばし空の器を見つめた後、誰に言うともなく、本当に聞こえるか聞こえないかくらいの小言で、ぽつりと呟いた。

「……うまい」

その声はあまりに小さく、近くで談笑していた他の客の声にかき消されそうだったが、すぐ隣に座っていたユイの優れた耳には、確かに届いていた。もしかしたら、注意深く鬼神 龍魔呂の様子を窺っていたダイヤにも聞こえたかもしれない。

彼は、自分がそんな言葉を漏らしたことなど気にも留めない様子で(あるいは無意識だったのか)、空になった器をダイチの前にすっと差し出し、無言でおかわりを要求した。

ユイは、彼の珍しい、そして素直な賛辞に内心で驚き、思わず微笑みが深くなった。ダイチは「えっ?」という顔をしたが、すぐにおかわりの要求だと気づき、「うん!」と嬉しそうに立ち上がって鍋からスープをよそってやる。鬼神 龍魔呂が自分の料理を気に入ってくれたことが、ダイチにとっては何よりの喜びだった。

ダイチの作った温かい料理を囲み、一行はしばし戦闘の緊張感を忘れ、和やかな時間を過ごす。食事は、彼らの絆を静かに、しかし確実に深めていくようだった。


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