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鬼神と月兎  作者: 月神世一


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33/63

ep 33

『鬼神と月兎』 第十三章:双翼の竜との出会い

フォレスト・ゴーレム討伐の翌日。英気を養った一行は、情報収集と新たな依頼、そしてダイチくんの服などを新調するために、再びシルバリアの冒険者ギルドを訪れていた。

「さて、まずは情報収集だけど…その前に、何か手頃な依頼を受けちゃいましょ。やっぱり先立つものがないとね!」

ダイヤはすっかりいつもの調子で、依頼掲示板へと向かう。ユイとダイチもその後ろをついていく。鬼神 龍魔呂は、少し離れた柱に寄りかかり、ギルド内の様子を窺っていた。

「うーん、ダイチ様も同行できるような、比較的安全な依頼となると…あ、これならどうでしょう? 隣の『カナン村』への物資輸送隊の護衛。道中の魔物は弱いものばかりだそうですし、村の人々も困っているとか…」

ユイが指さした依頼書を、ダイヤも確認する。

「ふむふむ、報酬はまあまあだけど、安全性は高そうね。よし、これにしましょ!」

ダイヤが依頼書を剥がして受付へ向かおうとした、その時だった。

「おい、離せ!」「グルルル…!」「こら、暴れるな!」

ギルドの奥の方から、何やら騒がしい声と、獣のような唸り声が聞こえてきた。冒険者たちが何事かとそちらへ集まっていく。

「なんだろう?」

ダイチが首を傾げる。一行も興味を引かれ、人だかりができている方へと近づいていった。

人垣の中心にあったのは、頑丈そうな鉄製の檻。そして、その中には…見たこともないような、二匹の小さな竜がいた。

一匹は、月の光を溶かしたかのような、美しい銀白色の鱗を持っている。もう一匹は、夜の闇そのものを写し取ったような、艶やかな漆黒の鱗。どちらも大きさは中型犬ほどで、まだ幼いことは明らかだった。そして何より奇妙なのは、二匹とも片方の翼しか持っていないように見えることだった。銀の竜には右翼が、黒の竜には左翼があり、二匹が寄り添うことで、まるで一対の翼のように見えた。

「あれは…『双翼竜』の子供じゃないか? 伝説の…」

「ああ、昨日ギルドが密猟者から押収したって話だぜ」

「しかし、ひどく怯えてるな…誰も近づけねえらしい」

周囲の冒険者たちの囁き声が聞こえてくる。

檻の中の二匹の竜――シルヴァとノクスは、警戒心を露わにし、近づく人間に低い唸り声を上げて威嚇していた。特にノクス(黒い方)は、鋭い目で周囲を睨みつけている。シルヴァ(白い方)は、ノクスに寄り添うようにして、怯えたように小さく震えていた。

その時、ダイチが、まるで何かに引き寄せられるように、そっと人垣を抜けて檻の前へと歩み出た。

「ダイチ様! 危ないです!」

ユイが慌てて止めようとするが、鬼神 龍魔呂がそれを無言で制した。彼は、ダイチと竜たちの間に、何か特別な繋がりが生まれようとしているのを感じ取っていたのかもしれない。

ダイチは、檻の前でそっと膝をついた。他の人間が近づいた時とは違い、二匹の竜はダイチに対して威嚇する様子を見せない。ただ、じっと、好奇心と警戒心が入り混じったような目で、彼を見つめている。

「怖くないよ」

ダイチは、優しく、語りかけるように言った。その声には、不思議と相手を安心させる響きがあった。

「君たち、怖かったんだね。もう大丈夫だよ」

彼は、そっと檻の隙間から手を差し入れた。

シルヴァ(白い方)が、おずおずと顔を近づけてきた。クンクン、とダイチの手の匂いを嗅ぐと、安心したように、その小さな頭をダイチの手のひらにすり寄せた。ゴロゴロと、猫が喉を鳴らすような音を立て始める。

警戒心の強かったノクス(黒い方)も、シルヴァの様子を見て、少しだけ身体の力を抜き、そっとシルヴァの隣に寄り添うようにして、ダイチの手の温もりを感じているようだった。

「「「おおっ!?」」」

その光景に、周りで見ていた冒険者やギルド職員から、驚きの声が上がった。誰にも心を開かなかった双翼竜が、この少年にだけ、明らかに懐いているのだ。

「信じられない…あの子竜たちが、人間に懐くなんて…」

ギルドの職員らしき女性が、感動したように呟いた。彼女はダイチに近づき、優しく問いかけた。

「坊や、君はいったい…? その子たちは、君に何か特別なものを感じているようだね」

「えっと、僕はダイチって言います。この子たち、なんだか、すごく寂しそうで、かわいそうだったから…」

ダイチは少し照れながら答えた。

職員はしばらく考え込んだ後、決意したように言った。

「…分かったわ。この子たちを檻に入れておくのは、もうやめましょう。ダイチくん、君になら、この子たちを任せられるかもしれない。ちょうど、これから村の護衛依頼に行くのだろう? 試験的に、君が責任を持って、この子たちを連れて行ってみてはどうかしら? もちろん、何かあればギルドが責任を持つわ」

「えっ!? ほ、本当ですか!?」

ダイチの顔が、ぱあっと輝いた。

「やったー! 君たち、一緒に行けるって!」

ダイチが喜んで二匹に話しかけると、シルヴァは嬉しそうに「きゅるる!」と鳴き、ノクスも小さく「…ふん」と鼻を鳴らした(ように見えた)。

こうして、思いがけない形で、ダイチは伝説の双翼竜シルヴァとノクスを、新たな仲間(あるいは保護対象?)として迎えることになった。檻から出された二匹は、少しおぼつかない足取りながらも、ダイチの足元にぴったりと寄り添っている。

「おいおい、マジかよ…いきなりドラゴン使いかよ、あのチビ…」

ダイヤが呆気にとられたように呟く。ユイは「ダイチ様と竜さんたち…なんだか、素敵な出会いですね」と微笑んでいる。鬼神 龍魔呂は、相変わらず無表情だったが、その視線は、嬉しそうに二匹の竜と触れ合うダイチに向けられていた。

一行の旅に、また新たな、そして強力な(未来の)仲間が加わった。彼らは、受けたばかりの「カナン村への物資輸送隊の護衛」依頼と共に、シルヴァとノクスを連れて、再びギルドを後にするのだった。

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