ep 31
『鬼神と月兎』 第十二章:シルバリアの夜、ささやかな祝杯
冒険者ギルドでの報告と報酬の受け取りを終え、一行は興奮と心地よい疲労感を抱えて宿屋「銀竜亭」へと戻った。外は既に夜の帳が下り、シルバリアの街はランプの灯りで幻想的に輝いている。
それぞれの部屋で一息つき、戦闘で汚れた装備を軽く整えた後、ダイヤが約束通り、どこで調達してきたのか、安いエールがなみなみと入ったボトル数本と、木のジョッキを抱えてユイとダイチの部屋の扉を叩いた。
「おまちどうさま! さーて、祝杯と行きましょ!」
部屋の中では、ユイがテーブルの上に木の実や干し肉(村からの謝礼だろうか)、そして彼女が用意したらしい甘い香りのする果実水を用意して待っていた。ダイチも、今日の冒険の興奮がまだ冷めやらない様子で、目を輝かせている。いつの間にか、鬼神 龍魔呂も部屋の隅の椅子に音もなく腰を下ろしていた。
ダイヤは手際よく木のジョッキにエールを注ぎ(ダイチとユイには果実水を)、一つを鬼神 龍魔呂の前に無言で置くと、自分のジョッキを高らかに掲げた。
「それじゃあ、私たちの記念すべき初依頼達成と、フォレスト・ゴーレム討伐成功に、かんぱーい!!」
「「かんぱーい!」」
ユイとダイチも嬉しそうにカップを掲げる。鬼神 龍魔呂も、ほんの一瞬だけ口角を上げたように見えた後、無言でジョッキを少しだけ持ち上げた。
「いやー、それにしても!」ダイヤはエールを一口あおると、満足げに息をついた。「今日の私の必殺技、見た!?『ブレイジング・プロミネンス』! あの硬いゴーレムを一撃よ、一撃! まさにパーフェクト、エレガント、ビューティフォー!」
彼女は自分の活躍を自画自賛し始める。
「ま、ミスター鬼神の足止め…っていうか、あの化け物じみた受け止めっぷりも、なかなか評価してあげるけど?」
「ふん」鬼神 龍魔呂は興味なさそうに鼻を鳴らすだけだ。
「ユイさんの弱点発見もすごかったです! あの声がなかったら、もっと時間がかかっていたかもしれません!」ユイが言うと、ダイヤも頷く。「そうそう! ユイちゃんの耳は本当に頼りになるわよね!」
「それに、ダイチ様も! あの時、わたくしたちを守ろうと前に出てくださって…とても勇気がありました!」
「えへへ…」ダイチは照れながらも、褒められて嬉しそうだ。「僕、もっと強くなって、次は本当にみんなを守れるようになりたいな!」
和やかな雰囲気で会話が進む中、ダイヤはエールを飲み干すと、ふと遠い目をして呟いた。
「はぁ~、金貨50枚…大金だけど、あの大剣のメンテ代と魔力補充、それに新しい投げナイフの補充と、防具の修理代、それから当面の宿代と食費を考えたら……あれ? 全然残らないじゃないの!? やっぱり貧乏からは抜け出せないのぉ!?」
彼女は突然、頭を抱えてテーブルに突っ伏した。そのあまりの落ち込みように、ユイとダイチは顔を見合わせて苦笑いするしかない。
「あはは…ダイヤさん、元気出して」ダイチが慰めるように言う。
「そうですよ、また次の依頼を頑張れば…!」ユイも励ます。
「…ところでたつまろさん!」ダイチが鬼神 龍魔呂に向き直った。「明日の稽古、新しいこと教えてくれる? 僕、もっともっと強くなりたいんだ!」
「…………気が向いたらな」
鬼神 龍魔呂は短く答えた。素っ気ない返事だが、以前のように完全に拒絶する雰囲気ではない。ダイチは「やったー!」と小さく喜んだ。
ユイはそんな仲間たちのやり取りを、幸せそうに見守っていた。強くて厳しいけれど不器用な優しさを持つ鬼神 龍魔呂。明るくパワフルだけど少しおっちょこちょい(でお金に困っている)ダイヤ。そして、弱くても真っ直ぐな心で成長していくダイチ。この不思議な組み合わせのパーティーの一員でいられることが、彼女には嬉しかった。
しばらくの間、他愛のない会話や、これからの旅への期待などが語られ、シルバリアの夜は穏やかに更けていった。やがて、ダイヤが大きなあくびをしたのを合図に、ささやかな祝杯はお開きとなった。
「さて、それじゃあ私は部屋に戻って寝るわ。明日は朝からギルドで情報収集と依頼探しよ! 寝坊しないようにね!」
ダイヤはそう言い残し、自分の部屋へと戻っていった。ユイもダイチを寝かしつけ、自分も休息を取ることにした。鬼神 龍魔呂は、いつものように部屋の隅で静かに気配を殺している。彼はおそらく、仲間たちが眠っている間も、見張り続けるのだろう。
シルバリアでの二日目の夜。確かな達成感と、深まりつつある仲間との絆を感じながら、一行は明日への英気を養うため、しばしの眠りにつくのだった




