ep 30
『鬼神と月兎』 第十一章:ギルドへの帰還
太陽が西の空を茜色に染め、シルバリアの街に長い影が落ち始める頃、鬼神 龍魔呂たち一行は、助けた冒険者パーティと共に冒険者ギルドの扉をくぐった。森での激戦の疲労はまだ残っていたが、無事に依頼を達成した安堵感が彼らを包んでいた。
ギルド内は、夕刻ということもあり、依頼を終えた冒険者や、これから夜の依頼に出る者たちで一層賑わいを増していた。一行、特に鬼神 龍魔呂とダイヤ、そして彼らに助けられた「鋼の戦斧」のメンバーが入ってくると、周囲の視線が一斉に集まった。昼間に彼らがB+ランクの大型モンスター討伐依頼を受けたことは、既にギルド内で噂になっていたのだろう。
まず、「鋼の戦斧」のリーダーである屈強な戦士ボルグが、受付カウンターへと進み出た。
「受付嬢さん、依頼の報告だ! 嘆きの森のフォレスト・ゴーレム、討伐完了した!」
彼の力強い声に、ギルド内がわずかにどよめく。
「そ、それは誠ですか、ボルグさん!?」受付嬢が驚きの声を上げる。
「ああ、間違いない。…ただし、俺たちだけじゃ到底無理だった。そこにいる彼ら――鬼神 龍魔呂殿と、ダイヤ嬢、そしてユイ嬢とダイチ少年のおかげだ。彼らがいなければ、俺たちは今頃ゴーレムの肥やしになっていただろうよ」
ボルグはそう言うと、一行の方を振り返り、深く頭を下げた。
その言葉に、周囲の冒険者たちの囁き声はさらに大きくなった。
「あの子供連れが、本当にゴーレムを…?」
「ボルグたちがそこまで言うんだ、嘘じゃねえんだろうな…」
「特にあの黒髪の男と金髪の女…昼間見た時から只者じゃない雰囲気だったが…」
好奇、驚愕、そして少しばかりの畏敬の念が入り混じった視線が、四人に突き刺さる。
「はいはい、主役の登場よっと!」
ダイヤが、どこか得意げに(しかし内心の疲労は隠しつつ)カウンターへ進み出た。
「依頼達成よ。証拠? あのでかい図体がただのガラクタになったのを見れば分かるでしょ。それより、約束の報酬をお願いできるかしら?」
彼女はカウンターに肘をつき、にっこりと(しかし有無を言わせぬ迫力で)受付嬢に告げた。
受付嬢は、ボルグたちの証言と、ダイヤの自信に満ちた態度、そしてその後ろに控える鬼神 龍魔呂の静かな威圧感に気圧されたように、慌てて確認作業を進めた。
「は、はい! ただいま確認いたします! ……確認取れました! フォレスト・ゴーレム討伐、確かに達成されております! こちらが報酬の金貨50枚になります! 本当に、お疲れ様でした!」
ずっしりと重そうな金貨の袋が、カウンターの上に置かれる。
「よっしゃーーっ!!」
ダイヤは金貨の袋をひったくるように受け取ると、その重みを確かめるように軽くポンポンと放り上げ、満面の笑みを浮かべた。疲れも吹き飛んだようだ。
「やったわね! これで当分は宿代も食費も心配なし! 高級な武器オイルだって買えるし、ついでに新しい投げナイフも…あ、いや、まずはダイチの服も新調しないとね…それにユイちゃんの薬草も…うーん、やっぱりカツカツかも……」
後半はいつもの調子で、少しだけ真顔に戻ってぶつぶつと呟いている。
報告を終えたボルグたちが、改めて一行の元へとやってきた。
「重ね重ね、礼を言う。君たちのおかげで、我々は命拾いしたし、街も森も救われた。この恩は決して忘れない」
ボルグは力強く言った。「俺たちは『鋼の戦斧』だ。シルバリアを拠点にしている。もし何か困ったことがあれば、ギルドを通じていつでも連絡してくれ。できる限りのことはさせてもらう」
彼はそう言うと、まずダイヤに、そして少し躊躇いながらも鬼神 龍魔呂に、固い握手を求めた。ダイヤは笑顔で応じ、鬼神 龍魔呂も珍しく、軽くではあるがその手を握り返した。
ボルグたちが他の仲間のもとへ去った後も、ギルド内の注目は一行に集まったままだった。中には、屈強な鎧に身を固めた高ランクらしき冒険者が近づいてきて、「ほう、君たちがゴーレムをね。なかなかやるじゃないか、新人。私の名はガレス。以後見知りおきを」などと声をかけてくる場面もあった(ダイヤが「どうもご丁寧に」と適当にあしらったが)。大型モンスター討伐という実績は、確実に彼らのギルド内での立場を変えつつあった。
「さてと!」ダイヤは満足そうに頷くと、一行を促した。「長居は無用よ! 早く宿に戻って、今日の勝利を祝わないとね! もちろん、一番安いエールで乾杯よ!」
彼女の掛け声に、ユイとダイチも笑顔で頷く。
確かな手応えとずっしり重い報酬、そしてギルド内での新たな評価。様々なものを手に入れた一行は、少しだけ高揚した気分と心地よい疲労感と共に、賑わうギルドを後にした。彼らは宿への道を急ぎながら、明日からの本格的な情報収集と、次なる依頼への期待に胸を膨らませるのだった。シルバリアでの彼らの物語は、まだ始まったばかりだ。




