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鬼神と月兎  作者: 月神世一


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29/63

ep 29

『鬼神と月兎』 第十一章:嘆きの森の巨像

シルバリアから北西へ半日ほど歩き、一行は目的地の「嘆きの森」の入り口に差し掛かっていた。その名の通り、森全体がどこか陰鬱な雰囲気を纏い、木々は捻じ曲がり、不気味な静けさが漂っている。

「なんだか……嫌な感じの森ですね」

ユイが不安そうに周囲を見渡す。彼女の耳は、森の奥から微かに響く、重苦しく、そして苦痛に満ちたような「音」を捉えていた。

森へ入る道を進むとすぐ、道の脇に冒険者らしき男性がうめき声を上げて倒れているのを発見した。屈強そうな戦士だったが、片足が不自然な方向に曲がり、顔面は蒼白だ。

「だ、大丈夫ですか!?」

ユイが真っ先に駆け寄り、彼の足にそっと手を触れる。月明かりはない昼間だが、彼女の仲間を助けたいという強い気持ちが、回復の力を高める。柔らかな光がユイの手から溢れ、男性の足の骨がゴキリと音を立てて元の位置に戻り、傷口も塞がっていく。

「あ…ああ、助かった…ありがとう、嬢ちゃん…」

男性は驚きと感謝の表情でユイを見上げた。ダイチも隣で心配そうに治療の様子を見守っている。

「一体何があったんですか?」ダイヤが尋ねる。

「ゴーレムだ…森の奥に、とんでもなくデカいゴーレムが…! 俺たちはパーティで討伐に来たんだが、硬すぎて歯が立たねえ…! 仲間がまだ奥で戦ってるはずだ! 頼む、助けてやってくれ!」

男性は必死に訴えかける。

「フォレスト・ゴーレム…やはり、ここに」

ユイが頷く。

「仕方ないわね、人助けも依頼のうちよ!」

ダイヤは魔法剣を抜き放ち、金色の闘気を纏った。「行くわよ!」

鬼神 龍魔呂も、既に赤黒い闘気を立ち昇らせていた。「ユイ、ダイチ、下がってろ」

一行は男性に礼を言われ、森の奥へと急いだ。やがて、木々が薙ぎ倒され、開けた場所に出る。そこでは、想像を絶する光景が繰り広げられていた。

高さは優に10メートルを超えるであろう、巨大なゴーレム。岩と、何百年も生きたような古木が魔法的な力で結合し、人型を成している。その巨腕の一振りは大地を揺るがし、鈍重に見えてその攻撃は苛烈だ。

そして、そのゴーレムと対峙しているのは、4人組の冒険者パーティだった。剣士が果敢に斬りかかるが、刃は硬い岩肌に弾かれ、魔術師が放つ炎の魔法も、苔むした体表を焦がす程度で効果がない。僧侶が仲間を回復させようとするが、ゴーレムの広範囲な衝撃波に吹き飛ばされ、苦戦を強いられていた。

「助太刀するわ!」

ダイヤが叫び、戦場へと躍り出た。金色の闘気を纏ったレイピアが、ゴーレムの足元(比較的動きの鈍い部分)を狙って閃くが、やはり硬い樹皮に阻まれ、深いダメージは与えられない。

「チッ…!」

鬼神 龍魔呂もゴーレムの前に立ちはだかる。彼は攻撃よりも、苦戦する冒険者たちを守ることを優先した。ゴーレムが冒険者に向かって振り下ろそうとした巨大な腕を、赤黒い闘気を最大限に放出して受け止める。

ズシンッ!!と重い衝撃。鬼神 龍魔呂の足元がわずかに沈むが、彼はびくともしない。

「ぐっ…! 見た目通り、硬いだけはあるな…!」

彼はゴーレムの注意を自身に引きつけ、その攻撃をいなし、受け流し、時には闘気の壁で防御する。圧倒的なパワーでゴーレムを押し留め、ダイヤと他の冒険者たちに攻撃の機会を作り出した。

「くそっ、物理攻撃が全然効かない!」「魔法もダメだ!」「どこかに弱点はないのか!?」

冒険者たちが叫ぶ。

「レイピアじゃダメね…! こうなったら!」

ダイヤは一旦距離を取ると、魔法収納袋に手を伸ばした。「出し惜しみしてる場合じゃないわ!」

彼女が取り出したのは、身の丈ほどもある巨大な両手剣。剣身は赤く輝き、陽炎のように揺らめく熱気を放っている。魔法で軽量化されているとはいえ、その質量は相当なものだろう。火属性の魔法大剣だ!

「ユイちゃん! 弱点はどこか分からない!?」

ダイヤが大剣を構えながら叫ぶ。

後方で状況を見ていたユイが、目を閉じ、耳に全神経を集中させる。ゴーレムの発する複雑な「音」の中から、一点だけ、他とは違う不自然な響きを探り当てる。

「…胸の中心です! 少し窪んだ、苔がたくさん生えている部分! そこから、弱いですが魔力の流れを感じます! きっと、そこが核です!」

「了解!」

ダイヤは頷くと、火属性の大剣に自身の金色の闘気を注ぎ込み始めた。剣身が灼熱の炎を纏い、さらに眩い光を放つ。その熱量は凄まじく、周囲の温度が急上昇するのが分かった。

「ミスター鬼神! あのゴーレムの動きを止めて! 一撃で決める!」

「…任せろ」

鬼神 龍魔呂はゴーレムの注意を完全に引きつけ、その両腕を闘気で絡め取るようにして動きを封じた。

ダイヤは好機と見て、渾身の力を込めて炎の大剣を天に掲げた。金色の闘気と灼熱の炎が融合し、巨大な炎の刃を形成する。

「これが私の全力よ! 悪さをするデクノボウには、お灸を据えてあげるわ! 食らいなさいッ! ブレイジング・プロミネンスッ!!」

ダイヤは雄叫びと共に、炎の塊と化した大剣を、ゴーレムの胸の中心、ユイが示した核の部分目掛けて、力強く振り下ろした!

ゴォォォォォッ!!

灼熱の一撃が核を直撃する! 硬い岩と古木でできたゴーレムの身体が、まるでバターのように溶け、貫かれていく。甲高い断裂音と、内部の魔力が暴走するような眩い光が迸る!

ゴーレムの動きが完全に停止した。体表の岩がガラガラと崩れ落ち、内部から立ち上っていた魔法的な光が急速に消え失せていく。そして、巨大な身体はバランスを失い、ゆっくりと傾きながら、ただの岩と燃え残った木の塊となって、轟音と共に大地に崩れ落ちた。

戦闘は終わった。辺りには、破壊されたゴーレムの残骸と、立ち上る煙、そして呆然とする人々だけが残された。

「……やった……のか?」

助けられた冒険者の一人が、信じられないといった様子で呟く。

「ふぅ……やったわね!」

ダイヤは大技を使った疲労からか、肩で大きく息をつきながらも、大剣を地面に突き立て、満足げに汗を拭った。「これで依頼達成! 報酬はきっちり貰わないとね!」(しかし内心では、大剣を使った後の莫大なメンテナンス費用を計算し、少しだけ顔が引きつっているかもしれない)

ユイとダイチが安堵の表情で駆け寄ってくる。「ダイヤさん、すごかったです!」「かっこよかったー!」

鬼神 龍魔呂は、崩れたゴーレムを一瞥すると、ダイヤを見て、「…やるな」と、珍しく感心したように短く呟いた。

助けられた冒険者パーティも駆け寄り、一行に深々と頭を下げて感謝の言葉を述べた。彼らも無事だったようだ。

フォレスト・ゴーレム討伐という大きな依頼は、新たな仲間たちの連携によって達成された。一行は、助けた冒険者たちと共に、達成感と(ダイヤにとっては懐の心配も抱えつつ)シルバリアへの帰路につくのだった。

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