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鬼神と月兎  作者: 月神世一


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28/63

ep 28

『鬼神と月兎』 第十章:束の間の休息

山賊たちの死体が転がる山道を後にして、一行はしばらく無言で歩き続けた。先ほどの戦闘、特に鬼神 龍魔呂の容赦のない殺戮は、パーティーの間に重く、気まずい空気を残していた。中でも、ダイチへの影響は大きかった。彼は俯きがちに、時折小さく肩を震わせながら、ユイに手を引かれるようにして歩いている。戦闘の興奮が冷めると共に、目の当たりにした死の光景と、仲間であるはずの鬼神 龍魔呂の苛烈さが、幼い心に重くのしかかっているのだろう。

その様子を、先頭を歩いていた鬼神 龍魔呂が、ちらりと振り返って見ていた。彼の表情は読み取れないが、小さく舌打ちをしたように見えた。そして、少し開けた場所に出ると、彼は足を止め、近くにあった苔むした大きな倒木を顎で示した。

「……少し、休むぞ」

そのぶっきらぼうな言葉は、明らかにダイチを気遣ってのものだった。

一行は倒木に腰を下ろしたり、近くの岩に寄りかかったりして、しばしの休息を取ることにした。ダイチはユイの隣に座り込み、ぐったりと肩を落としている。ユイは彼の背中を優しくさすりながら、「大丈夫ですよ、ダイチ様。もう怖いことはありませんからね」と声をかけるが、ダイチは力なく頷くだけだ。ダイヤも、腕を組んで険しい顔で黙り込んでいる。先ほどの鬼神 龍魔呂の行動は、彼女の正義感からしても、受け入れがたいものだったのだろう。鬼神 龍魔呂自身は、少し離れた木に寄りかかり、腕を組んで目を閉じている。彼の周りだけ、空気が一層重く感じられた。

気まずい沈黙。それを破ったのは、意外にもダイヤだった。彼女はわざと大きなため息をつくと、努めて明るい声を出した。

「はーっ! まったく、さっきの連中、弱いくせにしつこかったわね! おかげで無駄に疲れちゃったじゃないの!」

彼女は鬼神 龍魔呂の方をちらりと睨みつける。「ま、誰かさんのやりすぎには、正直ちょっと引いたけど? もう少し手加減ってもんを知らないのかしらねぇ」

鬼神 龍魔呂は反応しない。ダイヤは構わず続けた。

「そういえばさー、私も昔、似たようなしつこい山賊に絡まれたことがあってねー。その時は、なけなしの食料だった干し肉を全部奪われちゃって! いやー、あの時はマジで泣いたわー! 三日くらい、本気で草の根かじって飢えをしのいだもんね!」

彼女はわざと大げさに、自分の過去の(おそらくは数多くあるであろう)不運なエピソードを語り始めた。

「えっ、ダイヤさんも…草を食べたの?」

俯いていたダイチが、少しだけ顔を上げた。

「そうよー! しかもね、慌てて逃げようとしたら、見事に泥溜まりに顔から突っ込んじゃって! もう最悪! 服もドロドロ、お腹ペコペコ、おまけに武器まで少し錆びさせちゃってさー!」

ダイヤは身振り手振りを交え、自分のドジっぷりを面白おかしく話す。その必死な(?)様子に、ダイチの強張っていた表情が、ほんの少しだけ和らいだ。くすっ、と小さな笑い声が漏れる。

「!」

その小さな反応を見逃さず、ダイヤは内心でガッツポーズした。

「ま、そんなこともあるってことよ。失敗したり、怖い思いしたりしても、立ち上がって前に進めばいいのよ。ね?」

彼女はダイチの頭を、今度は励ますように優しく撫でた。「あんたのその優しさは、きっと誰かを救う力になるわ。だから、あんまり気に病むんじゃないわよ」

「うん…」

ダイチは、ダイヤの温かい言葉と笑顔に、強張っていた心が少しずつ解けていくのを感じた。まだショックは残っているだろうが、彼の瞳には少しだけ光が戻ってきている。ユイも、ダイヤの機転と優しさに感謝するように、そっと微笑んだ。

目を閉じていた鬼神 龍魔呂は、その間も微動だにしなかった。だが、彼の周りに漂っていた張り詰めた空気は、気のせいか、ほんの少しだけ和らいだように感じられた。ダイチの小さな笑い声と、ダイヤの明るい声が、彼の耳にも届いていたのかもしれない。ユイには、彼の「音」から、ピリピリとした棘のような響きが、ほんの少しだけ丸くなったように感じられた。

「さーて、少しは元気出た?」

ダイヤがダイチの顔を覗き込む。

「うん!」

ダイチはしっかりと頷いた。

「よし! じゃあ、そろそろ出発しましょ! あんまりのんびりしてると、日が暮れちゃうし、また変なのが出てきたら面倒だもんね!」

ダイヤの威勢の良い掛け声で、一行は再び立ち上がった。戦闘後の重苦しい雰囲気は、ダイヤの気遣いによっていくらか払拭され、彼らの間には、困難を共に乗り越えようとする仲間としての空気が、再び流れ始めていた。

四人は、少しだけ軽くなった足取りで、再びシルバリアへと続く道を歩き始めた。

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