表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼神と月兎  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/63

ep 22

『鬼神と月兎』 第八章:鬼神流・崩芯衝

シャドウハウルの群れを退けてから数時間、シルバリアへの道は平穏だった。一行が鬱蒼とした森を抜け、視界が開けた広大な平原に出た時、それは前触れもなく現れた。

ドドドドドド……!!

地面が揺れる。最初は微かだった振動が、急速に大きくなっていく。ユイが鋭く顔を上げ、兎の耳をそばだてた。

「この地響きは…!? 先ほどよりもずっと大きな『音』です! ものすごい速さで近づいてきます!」

彼女の警告と同時に、前方の地平線近くの森が、まるで嵐に襲われたかのようにざわめき、木々を薙ぎ倒しながら、巨大な影が姿を現した。

家ほどもある巨躯。ゴツゴツとした岩のような硬質の皮膚。背中には鋭い結晶質の棘が林立し、巨大な二本の牙が大地を威嚇するように突き出ている。巨大な猪型の魔獣――大型魔獣「アースクェイカー」だ。その巨体から発せられる威圧感と地響きのような唸り声は、ただそこにいるだけで周囲の空気を震わせた。

「うわぁあっ! な、なにあれ!? おっきすぎるよぉ!」

ダイチは思わず悲鳴を上げ、ユイの後ろに隠れた。

「大型魔獣…アースクェイカー…! なぜこんな街道近くに…!?」

ユイも顔面蒼白になり、ゴクリと息を呑む。

「冗談キツイわね…! あんなの、どうやって相手しろって言うのよ!」

ダイヤもその圧倒的な威容に顔を引きつらせ、即座に腰の魔法剣を抜き放ち、さらに魔法収納袋に手をかけた。レイピアでは分が悪い。大剣を出すしかない、と判断したのだろう。

しかし、そんな仲間たちの動揺を尻目に、鬼神 龍魔呂はただ静かに、その巨大な脅威を見据えていた。彼は仲間たちに一言だけ告げる。

「……下がってろ」

そして、一人、アースクェイカーに向かってゆっくりと歩き出した。まるで散歩でもするかのように、落ち着き払った足取りで。

「……道の真ん中で邪魔だ。どけ」

彼の言葉が挑発となったのか、あるいは縄張りを侵す小さな存在への侮りか、アースクェイカーは低く、大地を揺るがすような咆哮を上げた。そして、巨大な蹄で地面を数回蹴ると、目標を鬼神 龍魔呂一人に定め、凄まじい勢いで突進を開始した!

ドドドドドドドドッ!!

地響きと共に、巨大な質量が迫る。全てを薙ぎ倒し、踏み潰さんとする、まさしく暴走する城壁。ユイとダイチは思わず目を閉じ、ダイヤも「避けなさい!」と叫んだ。

誰もが、彼が巨大な蹄に踏み潰される光景を想像した、その刹那。

鬼神 龍魔呂の姿が、ふっと陽炎のように掻き消えた。

アースクェイカーの巨体が、空しく彼がいた場所を通過する。彼は魔獣の突進を余裕で回避し、その巨大な側面に回り込んでいた。そして、その動き、硬そうな皮膚、そして弱点となりそうな箇所――分厚い筋肉に覆われた脇腹の一点を、冷静に見極める。

「(…なるほど、図体がデカいだけで、動きは単調か。硬さだけが取り柄、というわけか。ならば――)」

左手の中指にはめた黒い指輪が、彼の意志に応えるように赤黒い光を放つ。次の瞬間、彼の全身から、先ほどの手合わせの時とは比較にならないほど濃密で、禍々しい赤黒い闘気が、まるで噴き出すように立ち昇った!空気がビリビリと震え、周囲の草が闘気の圧力でざわめく。

アースクェイカーが方向転換し、再び彼に向かって突進してくるのに合わせ、鬼神 龍魔呂は右の拳を強く握りしめ、そこに膨大な闘気を極限まで凝縮させ始めた。まるで小さな闇の太陽のような、禍々しくも強大なエネルギーの塊が、彼の拳の上で渦巻く。

そして、突進してくるアースクェイカーの脇腹、先ほど狙いを定めた一点へ。彼は低く、しかし戦場に響き渡るような声で、その技の名を告げた。

「鬼神流――崩芯衝ほうしんしょう!!」

凝縮された闘気を纏った拳が、アースクェイカーの硬質な脇腹へと、吸い込まれるように突き刺さった。

直後、轟音!!

拳を中心に、赤黒い衝撃波が魔獣の巨体内部で炸裂した! 鋼のような皮膚が内側から弾け飛び、骨が砕け、内臓が破裂する凄まじい破壊の奔流が、アースクェイカーの全身を瞬時に駆け巡る。

巨獣は、断末魔の叫びを上げることすら許されず、その巨大な身体をくの字に折り曲げた。内部から完全に破壊され尽くし、生命の光を失って、轟音と共に大地へと崩れ落ちた。

巻き上げられた土煙が晴れると、そこにはピクリとも動かなくなったアースクェイカーの巨大な亡骸だけが横たわっていた。鬼神 龍魔呂の一撃は、まさしく相手の「芯」を「崩す」、必殺の威力を見せつけたのだ。

「…………」

ダイヤは、大剣を取り出す寸前だった手を下ろし、ただ呆然とその光景を見つめていた。

「(…今の技…! 崩芯衝…? とんでもない威力……。闘気を内部で炸裂させるなんて…! やっぱり、格が違いすぎるわ……化け物ね、本当……)」

ユイとダイチも、口を開けたまま言葉を失っている。ただただ、目の前で繰り出された圧倒的な技とその結果に、打ちのめされていた。

当の本人は、拳に纏っていた闘気をふっと霧散させると、巨大な魔獣の亡骸には興味も示さず、何事もなかったかのように、再び街道を歩き始めた。まるで、少し大きな石ころを道端に蹴り飛ばした程度であるかのように、平然と。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 今の技は何なのよ!?」

我に返ったダイヤが、慌てて声を張り上げた。

「あんた、あんな凄い技隠してたわけ!? …ま、まあ、これで邪魔者はいなくなったわけだし、結果オーライだけど! さすがね、ミスター鬼神!」

彼女はいつものように強がって見せるが、その声には隠しきれない驚愕と興奮、そしてほんの少しの畏怖が滲んでいた。

ユイとダイチも、慌てて鬼神 龍魔呂の後を追う。彼の背中が、先ほどよりもさらに大きく、そして頼もしく見えた。彼の圧倒的な強さと、その内に秘めた計り知れない力が、この先の旅の大きな支えになることを、改めて実感したのだった。四人は、鬼神 龍魔呂の絶対的な強さを胸に刻み込みながら、再びシルバリアへの道を歩み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ