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鬼神と月兎  作者: 月神世一


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21/63

ep 21

『鬼神と月兎』 第八章より

シルバリアへと続く街道は、緩やかな丘陵地帯を抜け、再び深い森へと差し掛かっていた。木々が生い茂り、昼間でも少し薄暗い。先ほどまでの和やかな雰囲気は消え、一行の間には自然と緊張感が漂い始めていた。ダイチの肩のリスも、不安を感じているのか、彼の服の中にすっかり潜り込んでいる。

「……!」

不意に、後方を歩いていたユイが鋭く息を呑み、立ち止まった。彼女の兎の耳が、警戒を示すようにピンと立っている。

「龍魔呂様、ダイヤさん! さっき感じた嫌な『音』です! 間違いありません…すごく近くに、数も多いです!」

ユイが叫び終えるか否か、その言葉を裏付けるように、左右の鬱蒼とした茂みの中から、黒い影が次々と飛び出してきた!

それは、大型の狼に似た姿を持つ魔獣だった。艶のない黒い毛皮、鋭く長い爪、そして涎を垂らす口からは、無数の牙が覗いている。飢えた赤い瞳が、獲物を見つけた喜びと獰猛な光を湛えて、四人を睨みつけていた。数は…ざっと見て6体。

「シャドウハウル…! 群れで狩りをする厄介な魔物よ!」

ダイヤが素早く状況を判断し、舌打ちする。

「チッ、やっぱり出やがったか!」

鬼神 龍魔呂も即座に臨戦態勢に入る。彼の全身から、禍々しい赤黒い闘気が立ち昇り始めた。ダイヤも指輪を輝かせ、柔らかな金色の闘気をレイピアとバックラーに纏わせる。

「数は6! 前衛は任せたわよ、ミスター鬼神! 私は側面と後衛をカバーする!」

「言われずとも!」

二人の間に、手合わせを経た連携の意識が生まれていた。

「ダイチ様、わたくしの後ろへ!」

ユイはダイチの手を引き、少し後方の木の陰へと退避する。回復と索敵に専念する構えだ。

「グルルルァァァッ!!」

シャドウハウルのリーダー格らしき一際大きな個体が咆哮を上げると、6体の魔獣が一斉に襲いかかってきた!

「はあっ!」

鬼神 龍魔呂が先陣を切る。大地を強く蹴り、突進してきた一体の懐に潜り込むと、闘気を凝縮させた拳をその顎に叩き込んだ。ゴシャッという鈍い音と共に、魔獣の頭部が砕け散る。返す刀で、隣の個体の前脚を蹴り砕き、体勢を崩したところに追撃の肘を叩き込み、地面に沈めた。赤黒い闘気の奔流が、彼の動きに合わせて荒々しく渦巻く。

一方、ダイヤは鬼神 龍魔呂が引きつけきれなかった個体や、側面から回り込もうとするシャドウハウルを冷静に捌いていた。金色の闘気を纏ったレイピアが、まるで踊るように閃き、魔獣の喉元や心臓といった急所を正確に貫く。バックラーで鋭い爪を受け流すと同時に、体重を乗せた鋭い突きをカウンターで繰り出す。時には、死角から闘気を込めた投げナイフを放ち、鬼神 龍魔呂への攻撃を牽制した。華麗さと精密さを兼ね備えた、まさにウェポンズマスターの戦いぶりだ。

しかし、シャドウハウルも手強い。彼らは単体でも厄介だが、群れでの連携攻撃を得意としていた。一体がダイヤの注意を引きつけている隙に、別の一体が音もなく彼女の背後に回り込み、鋭い爪を振り下ろす!

「ダイヤ、後ろだ!」

鬼神 龍魔呂が闘気の衝撃波を放ち、背後から襲いかかった魔獣を吹き飛ばす!

「助かるわ!」

ダイヤは即座に体勢を立て直し、今度は鬼神 龍魔呂が大型の個体と組み合っているのを見て、魔法収納袋から取り出した銀色のワイヤーを投擲。闘気を流し込んだワイヤーが魔獣の足に絡みつき、動きを一瞬封じた。その隙に、鬼神 龍魔呂が闘気を込めた渾身の蹴りを叩き込み、大型個体を沈黙させる。

だが、敵の攻撃は止まない。連携を崩されたことに怒ったのか、残りのシャドウハウルがダイヤに集中攻撃を仕掛けてきた!

「くっ…!」

ダイヤはバックラーで猛攻を防ぎきるが、一瞬の隙を突かれ、魔獣の爪が彼女の左腕を浅く引き裂いた。

「きゃあっ!」

「ダイヤさん!」

後方で様子を見ていたユイが、ダイチの制止を振り切ってダイヤの元へ駆け寄ろうとする。

「大丈夫ですか、ダイヤさん! すぐに治療を…!」

「かすり傷よ! でも、早く治してくれると助かるわ!」

ユイがダイヤの腕にそっと手を触れ、回復の力を注ぎ込もうとした、その瞬間。

「危ないっ!!」

一体のシャドウハウルが、回復に集中するユイと、その傍にいるダイチに狙いを定め、牙を剥いて飛びかかってきた!ダイチは恐怖に目を見開いたが、震えながらも、咄嗟にユイの前に立ちはだかろうとした。

「ユイさん、逃げて!」

しかし、魔獣の牙がダイチに届くよりも早く、赤黒い閃光が迸った。

「―――っ!」

鬼神 龍魔呂が、ダイチを庇うように割って入り、闘気を最大限に込めた拳でシャドウハウルを殴り飛ばしていたのだ。魔獣は壁に叩きつけられたかのように吹き飛び、動かなくなった。

「たつまろさん…!」

ダイチは助けられたことに安堵しつつも、鬼神 龍魔呂のただならぬ気迫に息を呑む。

「…手間かけさせんじゃないわよ!」

その間に治療を終えたダイヤが、レイピアを構え直した。

「よし、ミスター鬼神! 合わせるわよ!」

「言われずとも!」

残るシャドウハウルはあと一体。鬼神 龍魔呂とダイヤは、まるで示し合わせたかのように同時に動いた。鬼神 龍魔呂が赤黒い闘気を右拳に凝縮させ、ダイヤはレイピアに金色の闘気を集中させる。

「「はあああああっ!!」」

二人の渾身の一撃が、最後のシャドウハウルに同時に叩き込まれた。赤黒い破壊の奔流と、黄金の貫通の閃光。二つの強大な力が合わさり、魔獣は断末魔の叫びを上げる間もなく、塵と化して消滅した。

辺りには、倒された魔獣の亡骸と、戦闘の痕跡だけが残された。激しい戦闘の後、ようやく訪れた静寂。

「ふぅ……思ったより手こずったわね……」

ダイヤはレイピアの血糊を払いながら、肩で息をついた。「おかげで腕に傷はつくし、剣も少し刃こぼれしたかも…。これだから貧乏は嫌になるわ、またメンテ代がかさむじゃないの…」と、いつものようにぼやいているが、その表情には確かな達成感が浮かんでいる。

ユイは念のため、もう一度ダイヤの腕の傷を確認し、完全に治っていることに安堵の息をついた。ダイチは、目の前で繰り広げられた激しい戦いと、自分を守ってくれた仲間たちの姿を目の当たりにし、改めて強くなることへの決意を固めていた。

鬼神 龍魔呂は、ダイチとユイが無事であることを確認すると、黙って周囲の警戒を再開した。仲間を守りながら戦うという経験は、かつての傭兵時代とはまた違う感覚を彼にもたらしているのかもしれない。

四人は互いの無事を確認し合い、戦闘で少し乱れた隊列を整えた。この遭遇戦を経て、彼らの間の絆は、また一つ深まったようだった。彼らは再び、目的地のシルバリアを目指し、少しだけ早まった足取りで街道を歩き始めた。

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