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鬼神と月兎  作者: 月神世一


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19/63

ep 19

『鬼神と月兎』 第八章:シルバリアへの道

ロックウッド村を後にして数時間が経過した。一行は、緑豊かな丘陵地帯を抜ける街道を東へと進んでいた。空は高く澄み渡り、見たこともない色鮮やかな鳥がさえずりながら飛び交っている。道の両脇には、青々とした草原が広がり、時折、不思議な形をした木々が生い茂る森が姿を見せた。

先頭を歩くのは、相変わらず寡黙な鬼神 龍魔呂だ。彼の鋭い視線は常に周囲に向けられ、わずかな異変も見逃すまいと警戒を怠らない。その後ろを、ダイチとユイが並んで歩いている。ダイチの肩の上では、すっかり元気になったリスが、興味深そうに辺りを見回していた。そして最後尾には、時折欠伸を噛み殺しながらも、油断なく周囲を窺うダイヤが続いていた。手合わせを経て、鬼神 龍魔呂とダイヤの間には奇妙な連帯感が生まれ、自然と前後の警戒を分担する形になっているのかもしれない。

「わぁ、見てユイさん! あの花、キラキラ光ってる!」「本当ですね、ダイチ様。綺麗ですけど、むやみに触ってはいけませんよ。中には毒を持つ植物もありますから」「うん、分かってる!」

ダイチは初めて見る異世界の風景に目を輝かせている。ユイはそんなダイチに優しく注意を促しながら、時折、先頭を歩く鬼神 龍魔呂の背中を見つめていた。

「ねぇボウヤ」

後方からダイヤがダイチに声をかけた。

「さっきからキョロキョロして、そんなに珍しいものばかりかい?」

「うん! 僕、村からほとんど出たことなかったから! 見たことないものがいっぱいだよ!」

「ふーん。ま、浮かれてばかりもいられないわよ」

ダイヤは軽く肩をすくめる。「可愛い花に毒があるみたいに、この世界は何がどこに潜んでるか分かったもんじゃないんだから。常に警戒を怠らないことね。それが冒険者の基本よ」

「はい! 気をつけます!」ダイチが素直に頷いた、その時。

ぐぅぅぅ~~~……。

静かな街道に、盛大な腹の虫の音が響き渡った。音の発生源は、もちろんダイヤだ。

「……はぁ。やっぱり昨日の報酬だけじゃ、全然足りないわね……」

彼女はばつが悪そうに自分のお腹を押さえた。「シルバリアに着いたら、まずは腹ごしらえよ! それから、ガッツリ稼げる依頼を探さないと!」

その切実な呟きに、ユイは苦笑し、ダイチは「だ、大丈夫? ダイヤさん…」と心配そうに見上げた。

ユイは、そんなやり取りを微笑ましく思いながらも、ふと鬼神 龍魔呂に話しかけた。

「あの、龍魔呂様」

「……なんだ」

「昨日は……その、村でのこと、本当にありがとうございました。ダイチ様も、村の方々も、そして…わたくしも、あなたに助けていただきました」

「……別に、礼を言われる筋合いはない。俺は俺がやりたいようにやっただけだ」

ぶっきらぼうな返事。だが、ユイには分かった。彼の発する「音」が、以前のような張り詰めたものではなく、ほんの少しだけ…本当に僅かだが、和らいでいることを。昨日の、あの小さな女の子からの感謝が、彼の心に確かな変化をもたらしたのかもしれない。

「(やっぱり、本当はとても優しい方なんだ……)」ユイは胸の中でそっと呟いた。

「ねぇ、たつまろさん!」

今度はダイチが、憧れの眼差しで鬼神 龍魔呂を見上げた。

「たつまろさんって、どうしてそんなに強いの? 僕も、たつまろさんみたいに強くなりたいな!」

「……強くなりたければ、死ぬ気で足掻け。守りたいものがあるなら、なおさらだ」

鬼神 龍魔呂は前を見たまま、低く答えた。それは彼自身の経験から来る言葉のようでもあった。

「そっか……死ぬ気で、守りたいもののために……!」

ダイチはその言葉を胸に刻むように、真剣な顔で何度も頷いた。

そんな和やかな(?)会話が交わされる中、ふと、ユイが立ち止まり、遠くに見える森の方角へ鋭く耳を向けた。彼女の兎の耳が、ぴくぴくと微かに震えている。

「……?」

「どうしたの、ユイさん?」ダイチが尋ねる。

「いえ……今、何か……すごく嫌な『音』が一瞬だけ聞こえたような……。気のせい、でしょうか……」

ユイは首を傾げたが、すぐに「なんでもありません。さ、行きましょう」と再び歩き出した。しかし、彼女の表情には、拭いきれない一抹の不安が残っていた。

空を見上げると、先ほどまでの快晴が嘘のように、少し雲が厚くなってきたようだ。

「んー、ちょっと天気が怪しくなってきたわね。あんまり道草食ってる場合じゃないかも」

ダイヤが空模様を見ながら言う。

四人は再び足を速め、目指す街シルバリアへと向かう。ロックウッド村での一件を経て、彼らの間には確かな仲間意識が芽生え始めていた。しかし、ユイが感じ取った不穏な気配、そして変わり始めた空模様は、彼らの旅が常に平穏無事とは限らないことを予感させていた。彼らの本当の冒険は、まだ始まったばかりなのだ。

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