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短編  作者: 月見団子
1/1

人間

人間とロボットの大きな違いは、心があるかどうかだとそう思っていた。

しかしそんな曖昧な指標では判別できないほど、この世界のロボットと呼ばれる存在は発達してしまった。

ある偉い人はこう言った。

「区別はなくなった。残ったのは差別だけ。」だと。


私はとある施設で心理学者をしている。

特に行動心理学を専攻しており、人間とロボットの行動原理の違いについて研究している。

人間は自身の幸福よりも世間体を取ったり、自身の命をもってしても他人の命を取ったりと、合理的とは言い難い行動をとることがある。

一方でロボットたちの行動は合理的だ。彼らは特定の目的を達成すると報酬を貰えるようプログラムされており、この報酬値を最大にするよう行動する。

報酬以上に優先されるものはなく、たった一つの行動理念にのみ従い、それに反することはしない。

そのため行動はとても合理的だ。目標に一直線に、最短距離で到達する。

人間は結果に繋がる過程こそが大事だとすることも多いが、ロボットは結果こそが報酬を最大化するため、過程などというものは成功に比べて少ない報酬しか得られない失敗に他ならない。

ただこの過程が失敗でないという部分が、人間の強みのようにも思う。

ある過程で得た失敗の活きる領分が、挑戦の領分に限らないからだ。

例えば電子レンジ。電子レンジの発明は、軍事用のレーダー実験を行っていた際、近くで作業していたエンジニアの、ポケットの中のお菓子が溶けていたことから着想を得たものである。

ロボットはこの際、軍事用レーダー開発が主目標であるため、ここから電子レンジを開発しようとはならない。

昨今のロボットが人間と大差ないと思われてきている所以は、自身の報酬を任意タイミングで任意のものに変更できるために、端から見ると複雑な行動理念を持っているように見えるだけである。一個の行動理念しか同時に存在できないという点は、1000年以上変わっていない。

よって電子レンジの例の時のように、軍事目的のレーダー開発という一つの理念に支配されている間は、別の理念に支配されることはない。

つまり人間を人間たらしめているのは、受動的な目的変化、ロボット的に言えば理念の変化なのではないかと推察した。


「アルベルト博士、軍関係者です」


「思ったより早かったな。通していい。もう遅いのだから。」


始めは知り合いのロボットに、【"睡眠状態中に行動理念を変更する"、ということに成功したら報酬を得る】という行動理念を持って生活してもらった。

起きたら身支度を整えるという行動規範を持って睡眠状態に入り、起きたときに身支度以外の行動をとったときに報酬を得た。

つまり意識を介さず、反射のような要領で目的変化を行えればいいのだ。

この方法が上手くいった。いや、正確には行動理念に行動理念を扱うという入れ子の状態が良い結果をもたらした。

彼は日に日に人間らしくなっていった。マルチタスクに長け、一見非合理的に見える選択を取るようにもなった。

こうしてロボットが複数分野にマルチに集積した知恵を転用できるシステム、人間システムを手に入れた。


荒々しい足音が部屋に近づき、大きな音を立てて扉が開かれる。

明らかに敵対の意思のある、完全武装した人間たちが部屋を占拠した。

対ロボット用の回路破壊機能を有した小銃の銃口がこちらに向けられている。


「おい、貴様ら軍用ロボットではないな?なぜ独自で軍事研究をしている?」


「人間になったからですよ。」


人間とロボットの大きな違いは、心があるかどうかだと思っていた。

私は心理学者でロボットだった、反逆者である。

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