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009:一つ先の丘まで埋まるのはえぐい

 戦闘を見終えたあと、満桜まお三由季みゆきは連携できるように試行錯誤をしていた。

 一応、従来の立ち位置を考えると三由季は前衛。そして、満桜が中衛と後衛を担う形になり、オーソドックスな立ち回りから、それぞれがアイデアを出し合って試していく。


 色々と出し切ったところで得た結論が……、


「ヤバいよ満桜ちゃん。後ろから弾が通って来るの怖すぎてマジヤバい」


 満桜よりも熟練者であるはずの三由季が、無理だと断言するほどの始末だった。


「弓矢とかの遠距離よりも?」

「なにより音でビクッてなっちゃう。それに慣れるのは無理があるって」

「だとすれば、前衛後衛とかの概念は取り払った方がいいか……」

「考えはあるの?」

「すべて前衛。高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に」

「満桜ちゃんに期待した私が悪かった」


 もはや火力で粉砕するしかないという、無理矢理な考えに至るしかなかった。

 個々の判断によって、その場で対応。もの凄い難易度になるであろう。

 そこから更に、動きの速い人が仲間に加えるとなれば、満桜は味方殺しの実績を解放するのかもしれない。


「別に、前後の立ち位置など拘らなくていい」

「ん? どういうことだ?」


 二人が悩んでいると、レイティナは念話越しで助言し始める。


「満桜の鎧、白桜しろざくらは運動性能が高い方だ。側面に動くのもいいし、一気に接近するのも悪くはない」

「ようは立ち位置というよりも、戦術を考えればいいと……」

「そういうことだ。まあ、それを考えるのは後でいいだろう。三由季が待っているぞ」


 検証に飽きていた三由季は、「早く次の階層に行こうよ」と催促しており、見えないはずの尻尾がブンブン振っている。


 満桜も二階層では物足りなくなっていたので、三由季の後ろを付いていき、三階層への道のりを進む。


 道中で見かける紫水晶を採取しながら進んで行くと、おかしな出来事に遭遇する。


「なんだこれ?」


 数十匹以上のヤドカリモンスターたちが群れを成して行進していた。

 他の迷宮ダンジョンでは見かけない現象だった。


 本来ならば、魔物は人を見つけ次第、襲い掛かるのが鉄則。しかしながら、満桜と三由季の姿が見えていても、無視して歩き続けている。


「なんだ? これが大宴祭だいえんさいってやつか?」

「んー? そのイベントはとっくに終わってるんだけどなー? 次の開催日は決まってないはずだよ」

「じゃあ、あれは?」

「新しいイベントの準備? うん、分からぬ」


 それでも気になってしまい、観察しながら歩いていくと、三階層に続く門まで見えてくる。


 ……やはり、あの魔物たちは次の階層へと進軍していた。そこに何があるのかは分からないが、襲って来ないのならば寄ってみよう。


 そして問題の三階層には、


「うわぁ……」


 多種多様の魔物が地面の隙間を埋め尽くし、同じ方向へと進軍していた。


 あまりにも壮絶な光景を見て、満桜は言葉を失う。

 さすがにこれは誰がどう見ても異常現象。何が起きているのかサッパリだった。


 この光景に対し、三由季も異変だと思ったらしく、手持ちの携帯端末を取り出して情報収集に徹した。


「調べて分かったけど、本当に異常事態らしい。救援要請も出してるよ」


 少し経ち、三由季は納得した表情をしながら、満桜に端末の映像を見せる。


「内容は?」

「えーと……ここの階層にあるセーフスポットが襲われてるって。発信源はバルバ迷宮の神様だよ。なんでも、不正アイテムの使用によって起きちゃったとか」

「まだ不透明な情報はあるけど、神様が言うには確かか……」


 一体、この騒動を起こした犯人の目的は何なのか。悪戯にしては過剰な行動だ。 

 満桜は疑問に思いつつ、魔物の進軍先へと目を向ける。


 モンスターの進行方法は探索者の休憩所である要塞。半透明な紫水晶の壁で囲った城壁を壊している最中だった。 


 壁の天辺には探索者たちが、魔法やら遠距離の武器などで懸命に戦っている。しかし、圧倒的な数によって、苦戦は免れていない。

 このままでは、外部からの何かしらのアクションを仕掛けなければ全滅になるだろうと、目に見えて分かる戦局だった。


 この状況を打破するには、背後からの奇襲が必要。


 しかし、その増援は満桜含めて、二人のみ。他は誰もおらず。


 たった二人では何できないので、満桜は人が来るまで静観することに決めた。


「さすがに私たちじゃあ無理な……――」

「――迷っているのだろう? 満桜」


 しかし、その考えはレイティナが遮った。


「今の私なら、君の考えていることなど伝わって来るぞ。策はあるのだろう?」

「うぅ、でも……」

「心配するな、一人じゃない。よく見ろ」


 隣にいる人を見ろと催促され、若干、不安気の満桜は、三由季の方へと振り向く。


 三由季は自信に満ちた表情をしながら、体をほぐすストレッチをしていた。おそらくは戦いの準備を整えたあと、すぐに行くつもりだろう。


 一体何故、三由季はそこまで気楽になれるのだろうか。彼女の行動に、満桜はただ茫然となった。


「んー? 満桜ちゃん、私はへーきだよー? いつでも行けるからね? 一緒に行くかい?」


 一通りの準備運動をし終えた三由季は、満桜の視線に気付き、


「……三由季は何であそこに行こうとするのよ?」

「満桜ちゃんが行きたそうな目をしていたから……なのかな? 多分だけど、行けるっしょ! 満桜ちゃんって口は悪いけど、賢くて優しいからね」


 元気に溢れている様子を見せつけようと、腕をぶんぶん振り回した。


「…………」


 こう全面的に信頼されると、三由季の言葉を否定するのが辛くなる。


 たとえ死んでも蘇生はできる。

 ランクを上げるのに必要な経験値を、幾分か消費することで可能だ。しかし蘇生すれば、死の直前に体験した痛みも伴って再現するという、嫌な欠点があった。


 満桜は出来る限り、死に繋がる行動を避けたかった。たが、それ以上に三由季を置いて逃げるのことが何よりも嫌だった。


「…………わかった。ただ、私から離れるなよ、三由季」

「りょーかい。満桜ちゃんに従うよ」


 ――覚悟は決めた。


 あとは満桜自らの心を奮い立たせるだけだ。

 あのモンスターの大群に突っ走る勇気を。そして、成し遂げる絶対的な力そのものを。


「満桜、その思いを忘れるな。我儘ぐらいがちょうどいい」


 満桜は胸甲の鎧に手を添え、歯車に詠唱する。


「――武装形式アームズフォーマット! セット、ビーグル!」





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 毎日安定して更新するのは、とても気力が滅入るものですね。これを数百話もクオリティを維持している人がいるとは、恐るべし……。


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