004:土地は大量に余っております
やろうと決めてしまえば、時が流れるのは早かった。
やっとの思いでレイティナのデスマーチは終わり、気付けば桜吹雪が舞うような晴れやかな春の季節へと変わっていた。
ああ、思えば長かった……――
――……ツルハシ担いで掘りまくる作業は。
地獄の計画が始まって最初の行動は、ただひたすら掘ることだった。
満桜は採掘用に購入したアイテムを大量に抱えて、いざ炭坑スポットの旅へ。
誰もが手に入る異次元ストレージが満杯になるまで採掘しまくり、その荷物を持ち帰って、また採掘巡りの繰り返し。
いつの間にか鉱石に関する知識が増えていき、なんだか楽しくなっちゃった満桜は、笑いながら歌って掘りまくる。
そして大量の鉱物資源を手に入れ、やっと終わり……ではなかった。
精製加工の作業が待っていた。これもギャザラーの業務に入っていたのだ。
そこで、満桜は融通の利く施設でボロボロのレイティナを見せ、
「一部だけでもいいので、ここの設備は使えますか?」
と、情で訴えた素晴らしき交渉術によって、精製設備の一部を使えるよう許可を得られた。若干レイティナは不貞腐れてるが、これは必要な犠牲というものだろう。
これでひとまず、採取職作業は終了。以外にも生産過程は高い器用のおかげで、すんなりと進められた。
部品加工が職業の内に入っていないのは不幸中の幸いだった。あったら満桜の心は確実に粉砕されていたであろう。
……というか、そのような精神力なんて持ち合わせていない。二週間という期間は長いようで短いものだった。
「――――…………あれ?」
どういうわけか、何故この二週間の出来事が感傷深い思い出の内に入っているのだろうか。
つい疑問に思ってしまい、満桜は小さく涙をポロリと流してしまう。
それは、失った心が戻る瞬間だった。
学園集会所。
学問を学ぶ教育機関は度重なる人口減少に伴い、利用価値が低くなっていた。
いつしか探索者が集まるようになり、今や学生はもちろんのこと、大人や子供、その他種族などの大勢も寄るような施設へと変わっていた。
「やあ、未来のツルハシマスター」
「――ぐぼっふぁっっ!?!?」
そんなひと目の付くような場所で、誰かさんが満桜の不名誉な二つ名を言い、お茶を盛大に噴きこぼした。
ええい、唯一の友人よ! これでは目立ってしまうではないか!
「噂で聞いたよ。何だかヤバい子供が炭鉱夫しているって」
「あーいません。そんな人はいませーんよー」
「満桜ちゃんでしょ?」
「……チガウヨ?」
「やっぱり満桜ちゃんだ」
別に噂のことなど気にしてないが、いざ目の前で言われると恥ずかしいものだ。
満桜は吐き出したお茶を掃除していると、
「それで、満桜ちゃんが"大きめの部屋を用意して"っていうメールから、全くの音沙汰無しの点について、どういう弁明を?」
「……ただ無心に採取していたので忘れていました」
「よし分かった。判決、激痛足ツボの刑に処する」
「えっ、それはまじ……うぎゃぁぁぁあぁあ!? 痛い痛い! 痺れてる! 痺れるって!?」
友人を心配させてしまった罰として、血も涙もない無慈悲な拷問を受けてしまった。
抑えきれない痛みが走り、阿鼻叫喚。とても少女らしい声を出す余裕はなかった。
苦痛に満ちた満桜の表情に反して、友人は幸せそのものを映したような笑顔になっていた。さながら、地獄の獄卒が笑う光景だ。
満桜で弄ぶ友人の名は、風花三由季。
黒髪ショートボブのお嬢様風衣装をした少女だ。
満桜の数少ない友人であり、よく懐き、満桜と同様の体格を持つちびっ子。しょっちゅう悪戯をする悪ガキだ。
こんな成りでも、彼女は一端の探索者。
三由季の職業は城塞守護者。敵の攻撃を防ぐという、小さな体格に見合わない職業だ。
タンクとしてはかなり強い職業だと言われており、皆から期待の目を向けられていた。
しかし、三由季は探索者としての義務をサボっており、どのパーティも組んでもすぐに解散。呑気に、その日暮らしの日々を過ごしていた。
「珍しくやる気に満ちているし成果はあったのかな? あったのなら、言うことあるよねー?」
「……情報提供、ありがと」
「おお、満桜ちゃんがデレるなんて……激レアだぁ!」
「うっさい」
満桜は三由季の猛烈なアプローチを跳ね除ける。頭をコツンと殴り「あてっ☆」という効果音が出た。
「うぐぐ、痛い……!」
耐久値の高い三由季を殴ったせいで、満桜の拳はひりつくような痛さに襲われる。
「分かってやってるのに、いい反応するねー」
「いつか、絶対……ぶちのめす!」
「その殺意の覚悟は、ちょっと怖いなぁ……。満桜ちゃんって、ちゃんとした淑女なのに、なんでそんな言葉遣いになったのか不思議だよ」
そう怖いといいつつも、三由季は満桜の頭を撫でてあやそうとする。
ここ最近、満桜の身長を超えたのだと言い放ち、姉さんぶる三由季。
そろそろ一度処したいと思う満桜なのだが、鋼のような硬い耐久の体にダメージを与えるのは無理な話だった。
「話を戻すが、頼んでいた部屋は確保したんだよな?」
満桜は忘れかけていた部屋の確保について、話を切り替える。
レイティナの計画である、大量生産と大量消費。効力を発揮するには、それなりの土地が必要だった。
そこで満桜は、謎のコネを持っている三由季に頼んでいた。話しの流れを見るに、きちんと満桜に見合うものを手に入れたようだ。
「話を戻すが、頼んでいた部屋は確保したんだよな?」
「ちゃーんと手に入れたよ。あとはプライベートに必要な家具とかの設置かな? メモってあるから一人で行きなよ」
「いいのか? こういうのはみんなで楽しむもんだと思うんだが……」
「残念ながら私は先に下見しちゃったので、その楽しみの共有は出来ないんだよね」
「おのれ」
「じゃあ、私はお菓子とテーブル買って来るから」
一通りの会話が終わり、三由季はバザーに寄っていった。
バザーと言っても、売り場の殆どがドローンだらけの無人販売店の形式。人が減った今では、そのようなお店が大半になっていた。
閑寂としているバザーだが、定期的に探索者たちの在庫放出と言う名のイベントが起きるので、利用客は多い方だ。
「学園にしてはかなりの敷地面積だな。地図が無ければ確実に迷う。まるで迷路のようだ」
歯車の髪留めに変化しているレイティナが、テレパシー越しで話しかける。
「私も何でこんなに広いのかは知らないな……。探したら白骨死体でもあるかも?」
「それはさすがに……無いよな?」
「無いと思いたい。一度、死にかけた記憶がある」
学園兼探索者の集会場。
そこには誰にも知らない隠された土地があり、謎の現象が垣間見られるとかなんとか。
今では、誰が設計したのかすらも忘れてしまった巨大建造物だ。
「地図によると、ここか?」
「地下に続いているな」
三由季の書き残した地図によると、薄暗い不気味な通路の奥にあるらしい。
満桜は道を間違えていないか何度も見比べた。
やはり間違っていないと知り、進むのを躊躇ってしまう。
人が入り交じる地点より、ちょっと離れた小道の先にある階段。意識しないと見逃すような場所だった。
階段を降り、長い通路を歩く。
「なんか……怖い感じがするな」
「部屋にあったゲームのような?」
「もし襲われそうになったら守ってくれよ、レイティナ」
「そのために武器を作ったじゃないか。大量の物を。それぐらいは自分でやってくれ」
「なぜ急に辛辣な対応を……? ――うおっ!?」
突然、満桜の会話を遮るように照明が点滅する。
長年メンテナンスを施されていないのか、はみ出た蛍光灯がぶらぶらと揺れていた。
どうやら三由季が確保した部屋は、誰も手付かずの訳ありな空き地であった。
中途半端で申し訳ないございません。
005:12時頃に公開予定。
006:18時頃に公開予定。