003:希望とは絶望の奥底にある
富士原 満桜 15歳 女性
種族:人間
職業:召喚士 Rank1
サブ職業:未設定
力:D
耐久:E
器用:S
敏捷:D
魔力:S
〈スキル〉
・〈眷属召喚〉
特殊なアイテムを触媒に力を持った者を呼び覚ます。
・〈魔力増大〉
魔力による補正が増大する。しかし、魔法が使用不可能になる。
・〈装備効果増大〉
装備品による効果が増大する。しかし、簡単に装備が壊れてしまう。
これが満桜の能力値。生まれた瞬間に与えられた力だ。
職業に書かれている召喚士は変更不可能。
ただし、サブ職業に関しては変更が利く。
しかし、それは戦闘に関連する職業ではなく、採取職と生産職などの非戦闘職しか選べない。
次にRank。所謂、己の格とも呼ばれている要素。
誰もが1から始まり、満桜の知る限りでは10まであるらしい。
ランクが上がれば総合的な能力値が増え、職業に沿ったスキルが手に入る場合がある。神々はそのランクを上げて欲しいと願っているのだ。
そして最も重要なのが、基本能力値の五項目。
上から順にS、A、B、C、D、Eの段階で才能の良さが決まる。トレーニング等で鍛えれば上昇するが、その数値は微々たるもの。
つまり、この項目は才能の指標である。
同時に、満桜の能力値は随分と偏っている証拠でもあった。
「ほう、これは……?」
満桜は「力」「耐久」「敏捷」の項目が、とんでもなく酷い。
これらを分かりやすく表現すると、
力……自らの意思で重たいものを持ち運ぶのは困難。
耐久……一度攻撃を受けると想像以上の大怪我を負う可能性が起きる。
敏捷……小さい体格のせいなのか、鈍足扱いされた足の遅さ。
という結果だった。
そこまで酷評されると泣きたくなる。改めて思い返せば心が折れてしまいそうだ。
「これがステータスなのか。比較対象が無いから判断しづらいな」
「偏っている。唯一使えるであろう器用と魔力も、スキルによって邪魔になっていてな……」
一応、満桜の器用と魔力は最高値の数値だった。
器用があれば武器や魔法の操作に練度が出る。
魔力が高ければスキルや魔法の効果を上げられる。
いずれも重要な能力値だ。
しかしどれも、満桜のスキルによって活かせなくなっていた。
それが、〈魔力増大〉と〈装備効果増大〉の二つである。
魔力はあれど魔法が使えない。
道具類で運用しようとも、たった数回程度で損壊してしまう。
一つ一つのスキルはどれも強力だ。制限はあるものの、使いこなせば高みへといけるポテンシャルはある。
しかし、二つ合わされば何も出来ないのが現状。
これらのスキルのせいで、満桜はいままで迷宮に行くのが不可能だった。
「何をしようにも、スキルの制限が枷になって思うように行かないか……。満桜は凄いな、それでよく私を見つけたものだ」
レイティナの口から開いたのは、褒め言葉を装った罵倒だった。
「褒め言葉として受け取ってやるからな。このやろう」
愚痴を吐きつつも、満桜は改めて考えていく。
どうして神はこんな物を与えたのだろうか。殴ってでも問いたくなってしまった。もっとマシなものを寄越せと物申したい。
過去に、この状況から打破しようと模索していたが、どれも無駄に終わっていた。
パワーレベリングなどの、強い人を引き連れての寄生行為は推奨されていなく、誰も手助けしてくれない。大量の道具や装備を揃えようとも、すぐに壊れてしまうため、かなりの準備が必要だった。
レイティナがいた迷宮に潜るのも相当苦労したのだ。費用対効果が低すぎて、もう二度と同じことはしたくなかった。
「ああ、いままでを振り返ってみると、散々だったなぁ……」
満桜は悲しくなるまで考え込んでしまい、つい小言を漏らし、
「いっそのこと、装備とかアイテムを全て自分で作ろうかなって……。でも、そんな余裕なんて無いよな……。はは……」
と、満桜の顔に深い皺が刻まれ、目の奥には消えない哀しさが生まれていた。
「ほう……。なら、ふーむ。こうすれば……」
「あれ? ダメ押しの提案だったけど行けるのか……?」
「ん、ああ。悪くないぞ。過程は凄く大変だが、かなり効果的な方法だ」
しかし意外にもレイティナは、その案は悪くないと思っていた。
まさか武器と防具、アイテムの類も自作して戦う、とでも言いたいのだろうか。
「サブ職業を駆使すれば可能だ。生産する素材をたくさん用意すれば、私の知識にある物で行けるはずだ」
「それって……」
「そう。装備品を使い捨て覚悟で運用。大量に作って補えばいい。大量生産と大量消費。それを上手く回せば行けるはずだ」
満桜はレイティナの提案を聞いて、言葉を失った。
大量生産と大量消費。まさに産業革命のような現象を、満桜の手一人でやるとは思いもよらなかった。
レイティナの計画は大変魅力的なものだった。嘆いていた満桜の目にじゃ輝きを取り戻し、絶望から希望へと変わっていた。
これなら行けるはずだ! やっと私は……――
「――まずは炭鉱夫になろう」
「…………ん?」
……あれ? 何故、嫌な予感がしたのだろうか?
「……レイティナ、説明を頼んでも?」
満桜は薄々、起こりゆる未来から目を背け、レイティナが言う計画の一端を知ろうと尋ねた。
「さっき言った使い捨て前提で装備と道具を作るには、大量の素材が必要だ。ここまでは分かるな?」
「分かる……」
「なら、採取と生産。全ての過程をこなすのは当たり前じゃないか」
「……そ、そこまでやる理由は? 素材なら買って揃えればいいはずでは……?」
「採取スキルと生産スキルには、君の貧弱なステータスを補強する優秀なスキルがある。だから――」
そこで、レイティナは指を軽く動かして、一呼吸置き、
「やるべきだ。まずは携帯用の武器を作ろう。目標は20。後に使うであろう素材も含めて確保しよう」
「…………あい」
やけに張りきったような表情をしながら、恐ろしい内容を告げた。
レイティナが提唱する計画は、過労死待ったなしのデスシミュレーションだったのだ。
満桜は背けていた未来の一部分が浮き彫りになり、戦慄する。
先の展開次第では、満桜は地獄を見るであろう。今更、後悔するのはもう遅く、ツルハシ担いで掘るのは当たり前の日々になるのは確実だった。
満桜はこの恐ろしい職業体験を知ってしまい、来るべき未来に正気を失いかけてしまった。
「さあ行くぞ、満桜。ここを乗り越えたら楽になれる」
覚悟はあれど、過程を知ると躊躇ってしまうのは間違っているだろうか。
その検証を二週間という時間を使って、身に染みて体験した結果、
「うぼあぁ……、あぁ、あぁ……?」
そう考える余裕など、残されていなかった。