表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/21

002:痛い沈黙は鋭く刺さる


 あれから、満桜まおはボロボロになったレイティナを抱えて、迷宮ダンジョンを密かに抜け出した。

 レイティナがいた所は、誰も管理していない非合法の迷宮だ。バレないように離れる必要があった。


 行きは楽勝だったが、帰りは別。何故なら満桜の前には、とても目立つ生命体レイティナがいるからだ。

 満桜は、衣服がほとんどない裸に近いレディをどう隠すか、頭を悩ませていた。

 しかし、意外にも簡単に解決した。


 それは満桜の憎きスキル、〈眷属召喚アンシェイン〉の能力。

 どういう効果なのか、〈眷属召喚アンシェイン〉には『召喚した者をアクセサリーに変換できる効果』があったと判明した。


 満桜はすぐさまその力を使い、レイティナを装飾品に変え、身に着けることで難を凌いだ。

 バレていないかと不安げに露道を歩いていたが、誰にも見つからなかったので、おそらく問題はなさそうだった。


「い、いないよね?」

「なんだ? 親でも居るのか?」

「いや、一人暮らしだけど……誰か居たら怖いじゃん」

「別に悪いことしてないから平気では?」


 満桜は自分の家だと言うのに、申し訳なさそうに玄関の扉を開けた。

 そして、そそくさと部屋へと駆け込み、無事にレイティナを軟禁する。


 ああ、これでひとまず安心。ゆっくり過ごせるようになった。喉を渇いたから冷たいお茶でも飲もう。


「お茶、どうぞ……」

「……ありがとう」

「…………」

「…………」


 冷たいお茶を一啜ひとすすり、隠れていた沈黙が浮き彫りになる。

 何故か部屋中には、痛々しい空気が流れていた。


 満桜はお茶を飲み干しあと、一息付いた所で思考を巡らせる。


 ああ、そうだった。やっと召喚したのだから、彼女との交流を図らなければいけなかった。

 しかし、満桜は自ら話し掛けるのが苦手な部類。そもそもな所、避けられる日々が続いていたので、必然的に会話が苦手になっていた。


 そこで満桜は、さり気なく視線をレイティナに送り、察して欲しいと願う。

 ただ、当の彼女は全く反応を示さなかった。というより、レイティナは常に無表情をつらぬいているので、動く様子が見られない。

 

 …………。

 ……さらば、私の人生。


 精一杯生き足掻いてやろうと決めていた満桜の心意気は、この沈黙によって打ち砕かれてしまったのだった。



 ◆



「すまない……。長く人と話していなくて、コミュニケーションを忘れ掛けていた」


 どんだけぼっち気質なんだよ、などとは言わない。満桜も同じ体質なので口をつぐんで隠し通した。


 気になるのは、今のレイティナの状態。


 ぱっちりとした瞳、整った顔立ち、そして青と白のグラデーションを重ねた長い髪の毛。それはまるで人形のような……人形そのものだが、可愛さを残しつつも美しさを兼ねていた。


 まつ毛が長くてとても綺麗だ。もし仮に、満桜に妹がいたら、さぞかし嫉妬するのかもしれない容貌ようぼうだろう。


 ただその容姿よりも目立ってしまうのは、傷だらけの体だった。


「大丈夫か? また爆発しないよな?」

「自己修理は終えている。壊れた箇所は残骸を引っ張り出して継ぎ接ぎ修理で直した。だが、完全に直せる術がない」

「それってもしかして……?」

「戦えなくなってしまった。次戦えば、私は壊れてしまうだろう」

「まじか……」

「ああ。特にコアの損傷が酷い」


 レイティナは自身の胸元――空洞に輝くものをそっと見せる。


 朧げな青緑の光を放つレイティナのコアは、宝石のような美しさだった。

 しかし、今はその価値を失い、所々にひび割れている。壊れかけの状態でレイティナを動かしていた。


「さすがにこれで戦って欲しいって言いたくないよ」

「それは嬉しい限りだ」

「でも……」

「でも?」

「……これで私は戦えるって思ったんだよね」

「そうか……」


 満桜は戦えないという事実を知り、ため息をつく。 

 やっとの思いで手に入れた力だったが、レイティナの話を聞いて諦めがついてしまった。


 どんな状況でも抗おうと豪胆したけども、誰かを犠牲に叶いたくはない。

 むしろ、これで気が楽になった。


 そう満桜が色々と考えついた時、レイティナは何か察したのか、ひび割れた宝石の胸に手を置き、


「改めて言うが、私の名はレイティナ。見ての通り、機械種のマシンナリーだ。ここの世界とは違う場所で、産まれてから朽ちるまで生きて過ごしていた。それで眠っていた所、君に呼ばれて目覚めた……だけだ」

「どうしたの、急に?」

「私は何も知らない。この世界のことも、君のことすらもだ。たとえ残されたものが少なかったとしても、全力を尽くす」

「…………」

「それがエゴイストだと言われても手伝おう。助けよう。だから、諦めないで欲しい。君には私がいる」


 何かを訴えかけるように独白し続けた。


 レイティナの顔色は機械らしく無表情で分かりづらい。ただ、その強い言葉には気迫に満ちたものだ。どうしても彼女は、満桜と共にありたいのだと思っているのだろう。


「…………そう」


 急な話に、満桜は無言になる。

 確かにレイティナは何も知らない。満桜の身勝手で召喚された存在だ。存外に扱うのは良くないのだろう。自分の都合でレイティナをを放置するのは、あまりにも心が痛かった。


「……分かった。レイティナ、協力して欲しい」


 ならばもう、全てを任せてみよう。この扱いづらい能力値が活かせるのであれば、全力を持って向き合うのも悪くはない。 


「――ステータス」


 満桜は自身の能力値ステータスを開示した。




 富士原ふじはら 満桜まお 15歳 女性


 種族:人間

 職業:召喚士 Rank1

 サブ職業:未設定

 

 力:D 

 耐久:E 

 器用:S

 敏捷:D

 魔力:S

 

 〈スキル〉

 ・〈眷属召喚アンシェイン

 特殊なアイテムを触媒に力を持った者を呼び覚ます。

 

 ・〈魔力増大〉

 魔力による補正が増大する。しかし、魔法が使用不可能になる。


 ・〈装備効果増大〉

 装備品による効果が増大する。しかし、簡単に装備が壊れてしまう。



003話:18時頃に公開

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ