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013:当の本人は知らぬ間に無双をしていた

 ◆side 榎本えのもとよう

 


 気付けば満桜が援軍に駆け付けてから、太陽が隠れていくまでの時間が過ぎていた。


 青い空が濃くなるように色付けられて、藍色に変わる。そこに星と月が浮き始め、着々と舞台の装飾品が露になった。

 そこで紫水晶がより輝きを放ち、浮かぶ紫の光が視界を照らし始める。


 フィールドの姿が一新した。


 これが、鬼神バルバが生きた真の世界。


 まるで過去の世界を再現したのではないのかと、思わせるような迷宮ダンジョンだった。


 世界が変わる一方、榎本は要塞の全貌を見渡せる場所で、機材の最終確認を行っていた。


「これで粗方準備を終えた。あとは戦いの行方に身を委ねる、か。俺のスタイルじゃないんだがな……」


 偶然か、或いは必然なのか。


 富士原ふじわら満桜まおが援軍として名乗り出てから、奇跡の連続が続いていた。

 敵を迎え撃つ際に必須な継続的の火力、内部に侵入するのを防ぐ壁の強化。更には、イレギュラーと戦うための最終手段。榎本が求めていた、軍勢に対抗できる手段が現れたのだ。


 それらに付け加え、榎本含めての探索者九人。実の所、銃器の運用を知っている者の集まりであった。


 ここまでくれば、これはもう運命の巡り合わせだとしか考えられなくなる。ただ、運に頼り切るのは、彼のポリシーに反していた。


 奇跡など信じなかった榎本は空を見上げ、確認事項を遡っていく。

 防衛配置は済んだ。要塞の強化を終え、対使徒との戦闘に備えることはできた。見落としているものは無いはずだと。


 しかし、それでも不安は拭えなかった。


 果たして大量に出現する魔物は殲滅できるのだろうか。操られているとはいえ、使徒の戦闘力は未知数なのが一番怖い。それに、事件を起こした犯人の姿が未だに見えないのも相まって、不気味さが増していく一方だった。

 

 榎本は数々の不確定要素について、仕方ないと割り切ることにした。できるだけ可能な限りは削った。あとはその場の判断で決めるしかなかった。


「榎本さーん、各地の無線調整、終わりましたー。あとはここだけですー」


 そこへ、榎本の元に一人の探索者がやって来る。配信で情報を発信していた探索者だ。


「ご苦労。そういえば配信者だとは言っていたが、名前を聞いていなかったな」

「忘れてました。自分、リンドールです。そこそこな実力を持つ、エルフだと思ってください」

「となると、他世界の住民か。よくもまあ、ここに来たものだ」

「僕の故郷、無くなっちゃいましたからね」

「そうか。それは軽率な発言だった」

「榎本さんが謝るなんて、マジで違和感の塊です」

「俺がどんな人間だと思ってたんだ?」


 故郷が無くなった。つまりは『アーカイブ』が維持できないほどに世界が衰退して、放棄を選んでしまったのだと。彼はそれを軽々しく言った。


 ただそれでも、悲観してなどいなかった。エルフ特有の長命という個性を失われたが、今はカメラを手に持って色んな世界を回るのが楽しいらしい。


「それで、榎本さん。なんで銃っていうのは無くなったのですかね? たくさん攻撃できるなら便利なはずだと思うのですが」


 リンドールは通信の感度チェックを終え、いよいよやることが無くなり、例の武器について口にした。


「ふむ……。理由は色々あるが、一番の問題は〝前提とするもの(ドクトリン)〟が変わったからだな」

「ドクトリンですか?」

「リンドール、神々が求めているものは知っているか?」

「そりゃあ、強い人ですけど……」

「銃器を使う戦闘というものは大抵、四から数万以上の人と組み、中規模から大規模で戦うのを想定としたものだ」

「あー、納得です。神様が求めるのは少人数での〝一騎当千の強者〟ですもんね。それに、全員が同じ職業になるとは限らない」


 榎本の説明に、リンドールは納得した表情を浮かべる。


 良くも悪くも、『アーカイブ』の付与したステータスによって、銃を扱う者が激減した。銃器専用のスキルが無ければ、戦うのが辛くなるからだ。


 それに対し、満桜は召喚獣を携えて上手く対応している。以外にも理に適っていた方法なのだった。


「そうだ。だから必然的に廃れてしまった。あとは弾薬というアイテムが大量に消耗するのもある。常に確保する余裕なんてないからな」

「新しく開発、改良するとなれば、かなりの時間が必要。とても僕たちにはできないものです」

「それを富士原がやってのけた、という訳だ」

「なるほど……。彼女が言っていた、例の副次効果ってやつですね」


 スキル〈装備品効果増大〉。


 そのスキルは自分のみに発動するものだと思いきや、武器に付与するバフスキルの能力であることが判明した。


 満桜が銃と弾薬に必要な魔力を込めるだけで、かなりの火力が発揮したのだ。

 壊れやすいというリスクはある。だがそこは、どれぐらい使えば壊れるのかを把握するだけで解決する問題でもあった。


「報告によると、弾倉二つ使えばガタが来る。なら予備の武器を回しながら使い、補修スキルで再利用すれば、耐久値の維持は可能だ」

「スキルのデメリットを他のスキルで穴埋め。強力なスキルを持つ探索者の間では頭の痛い問題でしたが……まさか生産職に方法があるとは思わなかったです」

「認識の違いによる弊害だな。他にも組み合わせがあるかもしれない」 


 榎本は満桜の強さの真相を知って感嘆する。


 今回の事件に関して思うところはあるが、強くなれる秘訣を得た。そのヒントによって、今まで試さなかったスキルの組み合わせを模索することができたのだ。

 これで、停滞していた高難易度の迷宮に行けるだろうと、自分の知識にあるスキルの数々を思考する。


「上手くはまれば最強に成れますかね?」

「あれはスキルだけの問題ではあるまい」

「そこは行けるっていう流れですよー」

「まあ、まずはあれをどうにかしてからだな」


 榎本とリンドールは目前の問題を解決するのが先決だと考え直し、魔物が来るのを待つ。


 そこで、満桜の護衛を任していた副隊長から通信が入る。


『榎本さん、少しいいですか?』

「どうした?」

『お嬢様方からの提案なのですが――……』

「――ほう、それは……面白い提案だ。ならば富士原が必要な《《仕様》》について教えよう。いま行っている仕掛けが終わり次第、南側で配置しろと伝えろ。そこが安定して火力を出せるポジションだ」

『了解。それでは』


 榎本は通信を切り、何を思ったのか、にやけた表情を浮かべた。


「ああ、どうやら俺の直感は正しかった」

「どうしたんですか?」

「リンドール、脳が焼き続けてもいいから見続けろ。お前が望む、最強に必要な要素が見られるぞ」


 やはり自分の勘を信じるべきだと確信した榎本は、丘の方を、魔物の群勢へ睨みつけた。


 丘の向こうから、黒い影が徐々に溢れていく。


 歪んだ身体、異様に長い腕、ギラギラと光る目。見上げるほどの巨大なものから、四つ足で這うものまで。そのすべてが狂気と殺意に満ちていることは、遠目でも伝わっていた。

 耳をつんざくような咆哮が響き渡り、世界を怖がらせる。魔物の足音が地面を踏み付け、丘の上から波紋のように恐怖を押し寄せた。


 振動と共に風が吹き荒れ、榎本とリンドールは逃げ場のない現実を突きつけられた感覚に襲い掛かる。


「来たか。距離からして、おおよそ半刻で交戦だな」

「数は……数えたくないですね! 深層で生息しているモンスターもいますよ」

「なあに、安心しろ。勝てるさ」

「でも、子供に任せるのはさすがに……」

「いけるいける。俺がそう感じたんだ」

「またその直感ですか?」

「直感もあるが、あいつの目を見て行けると思ったのもある。富士原は使徒よりも強くなるぞ。……さて、もう完成したのか」


 満桜の面白い提案によって、より相手に大打撃を与える秘策を編み出していた。

 最初は馬鹿げた案だとは思っていたが、少し考えてみると、かなり有意義なものだった。


 榎本が見上げたものは、豪華な要塞に相応しくない、とある建造物。いびつで巨大な塔の形をした建物であった。

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