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コンフィズリィを削って a carillonist  作者: 梅室しば
二章 カメラは替わって
9/20

来訪者

 寛奈は天井を見上げた姿勢のまま、視線だけを史岐に向けた。

 非常にボルテージの高い緊張が(からだ)に走って、声を出す事が出来ない。史岐は、それを感じ取ったように片手を広げ、ちらりと階段の方を見た。

「大丈夫」と彼の唇が動く。「甘粕さん。オルゴールの準備をお願い」

 寛奈はこくんと頷き、バッグに手を入れる。指先が震えているのを感じながら、オルゴールを取り出してテーブルに置いた時、階段の手すり越しに動くものが見えた。

 人間。黒い髪。それがわかって、少し安心する。

 なんだか小さいな、と思ったが、階段を上り切って正対した相手の見た目は、拍子抜けするほど幼かった。

 日本人の少年だ。髪はふわふわとしていて、短い。パーカにスポーツシューズというラフな出で立ちだった。年齢はどう高く見積もっても十五歳に届かないだろう。両手をジーンズのポケットに突っ込み、まるでスクランブル交差点を横切るように尊大な足取りで、テーブルの前までやって来る。

「おれに頼みがあるって訊いたけど」少年は、テーブルに置かれたオルゴールに目を落とした。「これ?」

「はい」寛奈は声を上ずらせながら立ち上がる。「あの、初めまして。甘粕寛奈です」

「あまかす、かんなです?」少年が真顔で首を傾げる。

 カンブリア紀の古生物を呼ぶようなイントネーションに、寛奈は思わず笑ってしまいそうになった。

「甘粕は苗字で、寛奈が名前です」

「八尋壺のウロモモ」少年も名乗る。そして、視線を史岐に向けた。

「熊野史岐と申します」彼も立ち上がり、一礼する。「八尋壺のヌシ殿とお見受けしますが、お間違いないでしょうか」

「うん」

「このオルゴールに術がかけられていて、八尋壺のヌシ殿でなければ開けられないというのです。見て頂きたいのですが、よろしいでしょうか」

「貸して」

 ウロモモが片手を広げる。

 寛奈は「お願いします」と小声で言い添えながら、彼にオルゴールを渡した。

 ウロモモは、じっとオルゴールを見つめ、やがてひとつ首を振って寛奈に返す。

「おれじゃない」

「え?」

「確かに、その箱には封印の術がかかっている。だけど、かけたのはおれじゃなくて、配下のウタバチというやつだ。そいつじゃないと開けられない」

 そんな、と寛奈は呆然とした。

「じゃあ、そのウタバチさんを呼んでもらうのは……」

「出来ない」ウロモモはもう一度首を振る。「あいつは八尋壺の外には出せない。凶悪なんだ。正直、おれも手を焼いている」

 それを聞いて、寛奈はぴんと来た。

 史岐の顔を見ると、彼も同じ結論に至ったのだろう。真面目な表情でかすかに頷いてみせる。

「あの……」勇気を奮い立たせて、寛奈は切り出した。「それなら、わたしがお役に立てると思います」

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