表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンフィズリィを削って a carillonist  作者: 梅室しば
二章 カメラは替わって
7/20

専門家のリプラィ

 マカロンみたいに角の丸い軽自動車の助手席で、佐倉川(さくらがわ)利玖(りく)はスマートフォンを取り出した。メッセージが届いた時には振動する設定にしてある。それが、さっき震えた気がしたからだ。

 片手で画面を操作すると、熊野史岐からメッセージが届いていた。写真も一緒に送られているようだが、文面を見る限り、急を要するものではない。

 その判断をして、すぐにポケットに戻したのだが、液晶のバック・ライトで気づいたのだろう。

「電話?」

と隣でステアリングを握っている阿智(あち)茉莉花(まりか)が訊いてきた。

 ぽつねんと一般道を走っているだけなのだが、今の彼女からは、およそ余裕というものが感じられない。

「いえ」利玖はわざと素っ気なく答えた。「別に、他愛ないメッセージですよ」

「他愛ないなんて、わざわざ言われたら、気になるわね」

「え、そうですか。困ったな」

「熊野先輩から?」

「まあ……」

「聞かせて、聞かせて」茉莉花が体を弾ませる。

「運転の邪魔になると思います」

「まあ」茉莉花は前を向いたまま目を丸くし、ぐっとステアリングを握りしめた。「良いわ。じゃあ、もう少し行った所にコンビニがあるから、そこでじっくり聞かせてもらおうじゃないの」



 宣言した通り、茉莉花はそこから交差点を二つパスした所で車をターンさせてコンビニエンスストアに入った。

 いかにも郊外の店舗然とした立地で、建物の方がおまけに思えるくらい駐車場が広い。左右どちらも空いている区画を見つける事は容易だったが、そんな場所でも、茉莉花はミラーを睨むようにして慎重に車をバックさせた。その真剣さといったら、見ている利玖の方が息を殺して見守ってしまうほどだった。

 エンジンを止め、二人は車から下りる。

「ふうぅ……」茉莉花は大型溶鉱炉のようなため息をついて車の正面に回った。少し姿勢を低くして、タイヤの辺りをじっと見る。「いやあ、難しいな」

「そうですか? まっすぐ入っているように見えますが」

「角度は、まあまあかな」茉莉花は厳めしい顔つきで、頷いた。「だけど、駐車する度にこんなに神経を尖らせていたんじゃ、そのうち乗るのも嫌になっちゃうわ。もっと華麗に、ずばっと、一発で決めたい所よね」

「茉莉花なら出来るようになりますよ」利玖は片手で拳を作って掲げる。「実践あるのみです。練習なら、いくらでも付き合います」

「ありがと」茉莉花は微笑んだ。「一人だと、どうにも寂しいのよね。何回か試してみたけれど」

 先月と先々月、つまり、大学が春休みの間に、茉莉花は教習所に通って運転免許を取得していた。車を持っている事が、特に薙野(なぐの)県内では、就職活動をする上で有利に働くのだと両親を説得して、中古のものをお金を借りて買ったらしい。大学を卒業して働き始めたら、少しずつ返す約束なのだと利玖に話した。

 利玖は今日、元々、一人で出かけるつもりで予定を組んでいた。しかし、行き先が大学からかなり離れている事を知った茉莉花が、それなら自分が車を出そうと言ってくれたのだ。

 兄・佐倉川(さくらがわ)(たくみ)には頼みにくい事情があり、また、熊野史岐に叶えてもらうのはそもそも不可能な状況だった為、これには大いに助けられた。雪は大方溶けたとはいえ、目の前でバスが停まってくれるような場所ではなく、かといってタクシーなど使ったらいくら掛かるかわからない。当初は自転車で行くつもりだった。不可能ではないが、それなりの準備と覚悟が必要だな、と考えて、若干のプレッシャを感じ始めていた所だったのだ。

 茉莉花には、出かける目的はキャンプだと伝えている。嘘ではないが、その一言に集約出来るほど、経緯は単純ではない。

 二人はコンビニエンスストアで飲みものを買い、車に戻ってきた。

「それで?」茉莉花が早速、運転席から身を乗り出して訊いてくる。「熊野先輩は、何て?」

 利玖はスマートフォンを操作して、送られてきた写真を見せた。

「ひゃあ」茉莉花は口を押さえる。「ちょっと、どういう事? 女の子じゃない」目を細めて、さらにディスプレイに顔を近づける。「というか、この子、潟大生じゃない? 構内で見た事ある気がする」

「そうなんですか?」利玖はディスプレイを自分の方に向ける。美蕗と似ている、という最初の印象が強くて気づかなかった。

「この子、誰?」茉莉花が訊く。

「誰なんでしょう」

「ひぇえ」

「それより、この野菜は何でしょうか」

「嘘でしょう?」

「訊かれているんですよ。茉莉花も見てくれませんか?」

 茉莉花は「いぃ……」と呻きながら写真に目を戻す。しかし、すぐにけろりとした表情になって「あら」と呟いた。

「これ、花豆じゃない?」

「花豆?」

「そう、えっと、本州ではほとんど生産していないのよね。主な産地は、確か北海道だったと思う」

「へえ……、よくわかりましたね」

「ちょっと前にテレビで、特集をやっていたの。この模様が特徴的よね」

「なるほど」利玖はテレビを見ない。全面的に茉莉花の発言を信用する。「花豆ですか。美しい響きの言葉ですね」

 利玖はリプラィのテキストボックスを立ち上げた。

〉花豆だそうです

とだけ書き込み、スマートフォンを仕舞おうとする。

 それを茉莉花が「ちょいちょい」と手を伸ばして遮った。

「それだけ?」

「あまり、食事の時間を邪魔しても……」

「え、熊野先輩、その子と一緒に北海道でごはんを食べているの?」

「そんなに遠くには行っていませんよ」

 だんだん、混乱させているのが申し訳なく思えてきて、利玖はココアのペットボトルに口をつけながら「あの……」と上目遣いに茉莉花を見た。

「ごめんなさい。ちゃんと話します。本当は、キャンプする事が目的じゃないんです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ