(30)
「ここに書かれているスピーア国で公には姿を現さない第二王太子とは……。」
「…西の大陸では以前色々ありましたから、東の大陸の様に顔を出さないのは安全策としてでしょうね…。」
(東の大陸と言う事はパフィーレン姫様と同じ…幻華呪………。)
眉を顰めて話しをする母の言葉に目眩を覚えてこのまま倒れてしまいたくなる現実に、そんな事をしても現状は何も変わらないと言い聞かせ問題の手紙から目を逸らしどうにか意識を保ち続ける。
「あちらには4、5年と伝えたのですよね?」
「……はい。」
もっと短い期間を伝えておけば良かったと後悔したが、あの時会うことなく先に屋敷へと帰って行った母の計画を穏便に進めていくにはどんなに早く見積もっても其れ位の年月が必要だった。
「……少し無理をしてでも急がねばならないようですね…。」
「……。」
(あの契約内容ではこんな状況に成りようが無い筈だが…何処で交渉を間違えたんだ?)
少し顔の色が悪い母にこれ以上はと伝えたかったがそうする以外の方法がない状況にあの黒装束へ願い出た話しがどうしてこうなるのか悩み、あの時もう少し煮詰めておけば良かったと下を向く顔を手で覆った。
「エレミタ、当日まで悩んでいた返事を最後は私が貴方に任せたのですからそんなに落ち込む必要は無いですよ。ただ…貴方と子が生まれた後はアイチーにも少し無理をさせます。協力してもらえますか?」
「それは大丈夫です。……それよりも母上が倒れないかが心配です。」
「……ありがとう。用件はそれだけです、手紙は此処で処分してから出て下さい。」
「はい…。」
「また連絡しますね。」
困ったように笑う母はそう言うと建物から出で行った。
(……こんな事になるならやはりあの時に止めておけば良かったな…。)
母が居なくなった空間で親族による最後の別れの式に声を掛けたオクラドヴァニアが、眠る妹に着けていた装飾品を思い出し顔が歪む。
(あれをどうやって手に入れたのか…注文先のフリーデンは謎が多すぎる……。)
取りに行った屋敷から引き返す馬車の中で冷静にそれとなく注文した経緯と注文先を聞き出したが事前に母から「何を見ても騒がないように。」と凍えるような瞳で言われて居なければどんな醜態を晒していたか分からなかったが今はその選択を間違えた気がした。
「はぁ…。」
知らない人から好奇の目を向けられないように気が付かない振りを選択をした結果に溜息を吐くと、再び頭痛の種になった手紙の問題の箇所に目を向ける。
(やはりどの国にも気が付く人間はいるよな……。)
その少女が身に着けていたという宝飾品を一般的に出回る石とは違う名で書き綴られている文字に再び頭を抱えてしまう。
ーーー
西の大陸にあるスピーア国の離れにある広間ではまだ日が高く昇る時刻にも関わらず全ての窓に遮光の布が引かれ火を使わないランタンを灯され、これから何かおぞましい儀式でも行われそうな雰囲気だった。
(何だか…いえ!絶対に!話しが違うわ!!)
長くしてしまう問題が発生してますが後1、2話で1度終わると思います。
最終話まで読んで頂いてからでも構いませんが、出来ましたら評価やリアクションをして下さると次のお話し作りの励みになり嬉しいです…!