(28)
ーーダンッ!!
「お姫様!!」
「!!??」
ドアを開け放ちこちらを呼ぶ女の大きな甲高い震えた声に、身体が驚きにより止まり振り下ろした短剣を彼女の首元に刺さる寸前で止めてしまう。
(誰!!??)
顔を上げて入り口を見ると白装束の1人が慌てた様子で中に入って来ていた。
「………一体どうしたの?」
ゆっくりと立ち上がり邪魔をされた苛立ちで祭壇の上から冷めた視線で見下ろし問い掛ければ、両膝を床に付け少し身体を浮かせ頭を下げて傅き、息を呑む音が聞こえ後面布で隠された顔を真っ直ぐ向けて震えたままの声で喋り始めた。
「…起きられた様で……姫様をお探しでございます。」
「…そう……。」
「………。」
「……終わったら向かうわ…。」
誰がと聞くまでも無い相手の目覚めを報せに来たようだが、後の面倒よりも今しか無い彼女が何より優先だった。
「ッ?!………。」
「……どうかした?」
「何でございません。」
驚いた様子が面布の揺れにより伝わってきたが、それ以上特に喋らず、そのまま立ち去ることも無く黙り込んでしまった女に問い掛ければ“ハッ”としたように頭を上げて面布越しに頭を少し左右に揺らし正面を向いた。
「……失礼致します。」
そう言って頭を下げてから立ち上がり、ゆっくりした足取りで開け放たれた扉前まで到着するとこちらを向きながら閉めて出て行った。
「………。」
「そちらの希望は全て叶えた……。」
「……?」
彼女に向き直り手に持つ短剣を力なく胸元に引き寄せていくと突然部屋の中に男のくぐもった声が響き。
「今手を出せばせっかく釣れた話しが変わってしまうぞ。」
「………ああ…そうだったわね。」
「………。」
「……私の願いは叶ったわ……貴方達のお陰よ…。」
話しの内容に誰が声を掛けてきているのか分かり既に気分が削がれた衝動は短剣と共に鞘に収めゆっくり柩の中に戻した。
「………。」
「…駄目なら……いつか……また……なのかしらね……。」
「………。」
「フフッ…何でもないわ…。」
柩の中に納められた花を眺めながら声の主に問うが返事が戻って来る気配は無く、相手も私と同じ想いなのは分かりきっていたのにつまらないことを聞いたと乾いた笑いが漏れた。
「…貴女とはお別れね……。」
「………。」
眠る彼女の金色の髪を撫でながら屈みその冷たい頬に口吻を落として別れを告げ祭壇から降りようとしたが足が勝手に立ち止まり振り返ると柩の中の穏やかな表情をした彼女を見つめる。
「……あちらでお幸せに…ね…。」
この世から旅立ち幸せなのかは分からないが、その表情が涙を浮かべて幸せそうに散っていったあの人の姿と重なり、瞳から知らない感情が流れている自分に気が付かないままあの時言えなかった言葉が自然と口から溢れた。
「………。」
誰の気配も無くなった部屋から仮面を付けた黒装束の人間が現れ柩へ近づいていくと黒の手袋を外し横たわる身体に触れた。
「こんな形になって…ごめんな……。」
そして最終話まで読んで頂いてからでも構いませんが、出来ましたら評価やリアクションをして下さると次のお話し作りの励みになり嬉しいです…!