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(26)


(顔を崩させてしまったわ…心配を掛けているのね……。)


他の参列者達に手を振りながらまだ少し距離のある複雑そうな顔の家族とオクラドヴァニア、そしてこれから嫁ぐスヘスティー公将家の家族達は心配そうな顔で微笑み見守るその表情に、神輿が近付いていく度に瞳が潤み溢れだしそうな目元に手を当てる。


(本当にこれで終わりね……。)


もう少しで目の前まで到着する距離迄近づいた所でふと両家で挟むように扉が空いている教会の内部が目に映り、これから過ごす日々を暗示しているのかと勘繰ってしまう程暗く、何処迄も続く底が見えない暗闇の世界の入り口のように見えてきた。


(…嘘を付いて、丸め込まれて、逃げ出せなくて、ずっとこれが隣にいる生活………本当にこの先は真っ暗ね………。)


両家の目の前に到着すると何故かその場に留まって動こうとしない神輿に不思議に思い下を向くと、担ぎ手の教会職員達の苦笑している表情に先程から止まらない潤む瞳にこちらにも気を使わせてしまった事が分かり同じ様に苦笑してしまう。


「ボイティ……。」


義娘(むすめ)よ……。」


「………。」


(はぁ…このままでは駄目ね…。)


父とお義父上様が其々発した不安そうな声に、気を張らなければ直ぐにそんな考えが湧いてしまう自分に1度瞳を閉じて強く握られた手に意識を向けた後、情けない顔をしている自分に別れを告げる。


(……街路に出た時にこの手を跳ね除けて1人逃げる事も出来た…でもそれをしなかったのが自分の意思だったのよ、嫌だと言いながらもこれと生きて行く道を何度も想像した自分が今更後悔した所でそれは自分の責任…なら……)


最後まで逃げる事を諦めきれなかった自分を捨てて、今日初めて正面を見据えて隣で微笑むファーレを見た後で父に向かって笑顔を作り直す。


(選んだ未来で何とか笑ってみせるしかないわ。)


「お父様……大丈夫です。お義父上様……宜しくお願い致します。」


顔見世の儀式で声を発するのは禁止されていたが、どうしても自分と同じ様に潤んだ瞳で渋い顔をしている父に道を決めた事を伝えたかった。


「ボイティ…そうか……幸せにな…。」


複雑そうな顔になりながらも困った様に笑い始めた筈の父の顔が突然目の前が暗くなり見えなくなった。


(あれ………?)


不思議に思ったが直ぐにまた家族達の顔が映ると今度は全てが歪み始め、何故か身体からは力が抜けていき、体勢も意識も保つ事が出来ずにそのまま倒れ込んでいく。


「ボイティ!!!!」


「「「「キャーーーーーーーーーー!!!!」」」


ファーレが呼ぶ声と様々な人達の大きな悲鳴が聞こえてきた次の瞬間目の前に暗闇が広がり、呼ばれる声も叫んでいる声も聞こえなくなり、握られていた手の感触も消え、花の香りも感じないただの静かな暗闇の中に落とされた。


(……決めた瞬間になんて……色々と限界だったのね…何も見えないし聞こえない、感覚もない…ずっと後悔していた気持ちも身体の気持ち悪さも…何て幸せ…な…少しだけこのま…)


その瞬間思考も停止し抗うことなく只々幸せを感じてその身を任せた。


「「ボイティ!!」」


神輿から崩れる様に投げ出されていく花嫁が傾き落ちていく姿に慌てる者、唖然としている者達で分かれたが、花嫁が傾きバランスを崩しかけた神輿と地面に打ち付けられそうな身体を花嫁の名を呼び急いで駆け出した2人が受け止めていた。


「「っ!!」」


「「「「「「!!!!!」」」」」」


花嫁の父が2人の元へ駆け寄ると受け止めていた花嫁を手渡し、慌ててやって来た教会職員達に促され父親が花嫁を急いで教会の中へと運んで行く姿に、追い掛けようと神輿の上で暴れ出した花婿を抑え降ろす様に担ぎ手に声を掛けてから、花婿の家族を呼び寄せ彼を任せると、ゆっくりと2人は教会の中へ向かって行く。


ーー良かったわね。


ーーこんなお目出度い席で…


ーーあんな式だったのよ…花嫁に負担が掛かって当たり前ではない?


まるでこうなる事を知っていたかの様な冷静な対応だったが、回りは大事に至らなかった事にホッと胸を撫で下ろした後、倒れた花嫁へ侮蔑や同情の言葉が漏れ始めた。


((……もう1人は…。))


薄青と黄橙の瞳は黙ったまま互いに視線を合わせた。


(何故……この人が?)


それを近くで見ていた朱色の瞳は複雑な色を滲ませ2人の背中を見つめていた丁度その頃、黒装束の人物が興味がなさそうに瞼を閉じていた少女の元に“依頼は全て完了した”との報告を伝えて消えるとゆっくりと瞼を開いた。


「そう…どちらになったか…楽しみね……。」


その濃桃の瞳は嬉々とした輝きに変わった。


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