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街路を曲がった先にまだ遠いが聳える教会の門が映り未だに桜銭が大量に舞い散る風景も残り僅かで終わるのだと思えば様々な思いが込み上げてきた。


(担いでいる人達から感じる緊張も、胃に穴が空きそうな演出も、もう自分では抑えられないこの顔の痙攣も本当に辛かった…でも漸く…此処まで…)


ゆっくりと着実に進む神輿の上から精神も内臓も顔も異常を迎えた顔見せの儀からやっと解放されるのだと潤み始めた瞳を振る手を止めて拭うと何やら周りが騒がしくなっていく。


ーーあら?花嫁さん……


ーーこんな素敵な婚姻式だもの感動しちゃうわよね。


ーーそう!これで最後かって何か込み上げてくるのよね!!


(………。)


集まった人達が別の方向に盛り上がりを見せ始め、複雑な気分を抱えた顔見世の儀は時間を掛けながらも出発した教会の門の前へと到着し正面を向いて神輿が止まった。


「これにて顔見世の儀式は終了致します。新たなる夫婦の門出の儀にご参列頂きました皆様誠にありがとうございました。」


教会の門の前で待っていた神父が本日街路に集まってくれた人達に声を掛け終わるのを待って、神輿上から一礼すると最後に上空からは街路を埋め尽くさんばかりの桜銭が大量に降り注ぎ教会の門が再び重たい音を響かせながら開いて行くの背中で感じた。


(……此処までくるともう祝われているのかすら疑問になるわね。)


目の前にかかる濃桃色の量が多い帷帳の様にも見える桜銭がヒラヒラと舞う光景を開いた掌にも感じながら眺め、神父の合図により反転し始めた神輿の雰囲気が柔らかなものに変化し安心を覚え降りた後の事を考え始めた。


(後は先に教会を出てスヘスティー家へ向かって着替えてから披露宴に出席された方と晩餐を……)


もう大丈夫だと顔の力を抜いて前を向いた瞬間扉の死角から目の前に濃桃色だけの桜銭が舞い散り入った籠を持つ参列者が笑顔で並び待っていた。


「「「「「「おめでとう!」」」」」」


「?!」


(こんなの聞いていないわよ!!)


ファーレも知らなかったのだろう握り続けていた手を更に強めに握ってくると浮かべている笑みを深めた。

教会の高い門を潜り次第顔を休ませようとしたがそれが出来ない状況に急いで笑みを作り痙攣により痛みを感じていた顔に鞭を打ち固定する。


(本当にもう限界なのよ…。)


濃桃の桜銭だけが舞い散る教会の庭園の歩道を先程よりもゆっくりと進む神輿の上で笑顔のまま手を振り応えていると、少し進んだ先の列の手前には、カメラ、アミ、メイトもいて“おめでとう”と複雑そうな表情に涙を浮かべ声を掛けてくれた。


(本当ならもっと簡素な式で皆とも話しが出来たはずなのに……。)


微妙な気持ちになり少し眉が下がりかけるが婚姻式でのファーレの行動に引き攣った笑顔を見せる人達もいる中、光家は当たり前に将家家長とその夫人はそんな様子を一切見せることなく自然に微笑む姿に、それは許されないだろうと気持ちを立て直す。


(想像もつかないけれど……私もいつかこうなるのかしらね…。)


其々の表情に尊敬の念を持つがそれと同時に恐怖を感じ、これからこの人達の仲間入りをしていくのかと思うと今直ぐに神輿から降りてしまいたい衝動に駆られたが、強く握られた手にそれはもう難しい事だと諦めて手を振り続け教会の庭園を過ぎて行くと、教会内に続く開いたままの裏口の扉前に居るスヘスティー公将家の面々と父と母と兄、そして何故かオクラドヴァニアが籠持ち待っている姿が目に映った。


(お父様…お母様…お兄様…オクラドヴァニア様…。)


見てしまえば甘えてしまうのだろう、張り詰め無理をしていた筋肉が緩み眉が下がってしまい、急いで顔を戻したがきっと泣きそうな顔をしているその表情に、家長として立つのを辞めた其々の家族達は心配そうな顔でこちらを見つめていた。


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