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私達が神輿に乗ったのを確認した後、教会職員達によって移動の確認の為肩に担がれ上の方に嵌め込まれたステンドグラスに描かれてある上空から桃色の花弁が舞い散る風景が少し近くなり眺めていると、握られている手に力が込められファーレの表情が厳しい物に変貌していた。
「どうしたの?」
(今度は何かしらね……、あまり外に出てから不機嫌になられても困るわ……。)
「ボイティ…君を奪いに来ないなんてそんなこと誰にもわからないじゃないか。」
ファーレのその表情にまた先程の様な事を外でされたら耐えられる自信は無いと、先にその表情の理由を尋ねれば余りにも拍子抜けする答えが返ってきた。
「……まだそんな事を気にしているの?」
(私の名を聞いて泣きながら大金を諦める人が多いらしいけれど、きっとファーレには話していないのよね…。)
「…あぁ…でも…いや…そうだよね…大丈夫…だって……
「………。」
1人で何やら喋り始めたファーレを横目にまたステンドグラスに視線を戻し眺めながら仕方が無い事を考えてしまう。
(全く知らない相手を何の利もなく連れ出そうなんてしないだろうし、それよりも怖いと断ってくるほどの相手に誰が立ち向かってくるのかし…!?父と母と兄ならやりかねないけれど、今日では無いでしょうね…。)
先程の表情を思い出しもしかしたらと思うが、動くとしても婚姻後の事だろうなと眉を寄せ1人静かに頷き納得していると握れた手を引かれ次は何だろうとファーレに視線を向けた。
「ボイティは花嫁なのだからそんな難しい顔は似合わない。笑って。」
「!?………。」
(本当に一番言ってはいけない人の言葉って世の中にあるのね…。)
何やら悩みは解決したのが表情が戻っていたファーレに声を掛けられ、その顔に先程の事や婚姻式ので様子を思い出してしまい、一瞬眉間に皺が寄るが何とか耐え無表情で空いている方の力を込めた手元を見つめる。
「確認が終わりました。お二人共外に出ますのでお気をつけ下さい。」
教会職員に声を掛けられ乗っている神輿が動き出すと無表情で見つめていた顔に笑みを張り付けた。
(我が家とは違うけれど綺麗な庭園ね…。)
表ではなく裏の入り口から教会を出ると様々な植物や花が咲き誇る広い庭園を抜けて行き街路へと続く厚みと高さのある扉が見えて来た。
(凄い…、既に声が聞こえて来るわ…一体どれだけの人が集まっているのかしら?あぁ…胃が痛くなってきた……。)
閉じられている扉の前に到着すると聞こえてくる大勢声に緊張し始め唇を上げている筋肉に力を込めると“ギ、ギギギギギギィー”と重い音を鳴らして扉は内側に開かれていく。
「出てきたぞ!!」
「「「「「「おめでとうございます!」」」」」」
(………すごい。)
「………。」
声と共に濃桃から純白まで様々な色の桜銭が至る所で大量に舞い上がり目の前を染め上げるその風景に只々圧倒され、来てくれた人達へのお礼を伝える為の手振りを忘れ呆然とその風景に見入ってしまう。
「綺麗だね。」
ファーレに声を掛けられ我に返り横を向くと熱のこもる視線が一瞬絡みついたが、すぐに正面を向き笑顔で手を振り始めたファーレと同じ様に顔を作り手を振り始める。
(それにしてもいくら何でもこの量は異常よ…とても辛そうだわ…。)