(21)
ーーーバサッバサッ!!
(あれは何処に向かうの……。)
「……まだ始まらないかと存じます。そちらはお寒ぅございますので中でお待ち下さい。」
「!!!」
青い空に溶け込む髪を靡かせ露台に腰掛けながら静かな街並みを1人眺めていると下の生い茂る樹海から空へと羽ばたいていった鳥の群れに手を伸ばし身体を少し浮かせた所で突然後ろから女の声が聞こえた。
「……来ていたの……。」
いつの間にか控えていた白色の綿布で顔を隠し白い装束に濃桃色の帯を腰に巻いた誰かも分からない数人に声を掛けながらも、振り返った部屋の様子に何とも言えない物悲しい気持ちになる。
(等々……。)
「ハハッ……下がって大丈夫よ。あの人みたいに此処から散ったりしないわ。」
今日は表から入って来たのかこの部屋に来るまで何部屋にも仕切られてある襖が全て開かれているのが見え、全く気が付く事が出来なかった自分に乾いた笑いが漏れる。
「!!そのような意味では……。それに…その様な事は無いと視えておりますから。」
「………。」
そう言う男の声が聞こえると全員頭を下げて同意を示していたが、それならば何故……と何とも言えない腹立たしさに露台の手摺に爪を立て指に力を込めてしまう。
(全員鬱陶しいわ……。)
「そう。なら特別な今日と言う日は1人で居たいのよ。分かるのでしょう?」
そう言って微笑んで見せれば、後ろに控える白装束の人間達に緊張感が漂い始めた。
「……畏まりました。機嫌を損ねる様な発言をしてしまいまして申し訳ございません。本日お伺い致しましたのは……
「………。」
そう言いながらも出て行かずに話しを始める別の男の声に不快感が増してきたが、その内容により気分は一転した。
例の件について報告に参りました。今日が終われば内部の者達が手筈通り遂行しご希望のものは明日の朝には向かいの塔に到着致します。」
「まぁ!!それは嬉しい報告だわ。ふふ、ありがとう!」
話しを聞き終え目を見開いて驚いた後に少女は先程とは違う花が綻ぶ様な笑顔を向けて礼を伝えると控えた人々は只々その言葉を噛み締めている様子だった。
「…その様に喜んで頂けて我々は……報われます。」
「「「「「全てはファン・ホア・グレーヌ…貴方様の為でございます。」」」」」
歓喜に震えた声で女が声を掛けると、それに続くように白装束の人々が声を合わせ平伏した。
「明日を楽しみにしているわ。」
「はい、お待ちしております。」
そう言うと全員が立ち上がり部屋から出ていくと襖に手を掛け“シャランシャランシャラン”と鈴の音を響かせて閉めていった。
「私の為…、フフフフハッ!何も…分かっていないのね……。」
その様子を見ることも無くまた視線を外に戻すと襖を開閉する鈴の音が響き終わるのを待って誰に聞かせる訳でもない愉しげに独り言が漏れ出す。
「…2度と自分から離れない様に、翼をもいでも…足を落としても…。」
「アハハハハハハハハハハ!!!!鳥は自分を傷付けた相手を決して許さず…どんな事をしても……もう決して手に入らないのに……。」
涙を浮かべ嗤い出すと露台に寝転び横を向き視線を部屋の一角に移しぼんやりと見つめる。
「確実に手に入れたいのならちゃんと動かないように壊さなければならないのにね……。」
1度瞼を閉じた後顔を正面に戻し露台から見える上空に手を翳すとニタァと壊れたように嗤い始めた。
「本当…ナンテクダラナイ……。」
………!!!…………!
!………!!…………!
「……。」
時街の方が騒がしくなり何かが撒かれているのが横目に映ると起き上がり能面の様な無表情でその様子を眺める。
「【……あ〜あ…始まってしまったのね…残念だわ…。】」
街の中で風により舞い上がる自分の瞳の色のような祝いの紙吹雪に冷たい視線を向けるとつまらなそうに呟いた。
(いつ見ても信じられないのよね……。)
「…濃い血を求める者達が望む花の色はがあんな幸せそうな色である筈が無いわ……。」
「赤黒いこの血の様な色が似合いよね……。」
翳した時に気が付いた先程手摺に力を込めた時に傷つけたのだろ血が流れる人差し指を眺める。
「漸く捕まえた鳥が逃げるのと、2度と動かなくなるのと、結末はどちらかしらね……。」
手摺の上に両腕を置き片頬を乗せると興味を失った様に瞼を閉じた。
ーーー
(本物はもっと綺麗なのでしょうね……。)
そんな感想が湧く程嵌め込まれたステンドグラスは美しかった。