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「そして5年前に君の婚約者が決まったと報告を受けて……俺がどんな気持ちになったか分かる?」


そのまま髪を優しく梳かれながら耳元で話しかけられ急いで身体に力を込めて耐えながら手で足を押し逃れようとするが微動だにしなかった。


「っ!…分からないわよ…。」


「ふふ、そうだね……。でも君がこの婚約を望んでいないと知った時、彼を君と俺の手を汚すこと無く始末できる方法を考えて、モイヒェルを君の屋敷に送り込んだ。」


髪を通して肌を触る擽ったい感覚に声が震えるとファーレは愉しそうに物騒な話しを始めた。


(ならあの時の傷は……。)


「…っ!……!?。」


初めて血塗れ姿のモイヒェルが脳裏に蘇ると突然首筋に感じる生暖かい感触に声が漏れかけ急いで両手を口に当て、今声を上げればどんな音声が飛び出るか分からず疑問を口に出すことも出来なかった。


「……そうしたらまさか婚姻後直ぐに隣国に逃げ込めるように今のうちに事業を行いたいからと偽装用の身分が欲しいって伝えるなんてね。聞いた時は驚いたけど、モイヒェルが君に協力した後に報告をしに来たのはもっと驚いたよ。」


「………。」


鳥肌が立つ感覚に耐えながら聞くモイヒェルの話しに彼の事が分からなくなる。


「仕方が無いから計画を変更してオクラドヴァニアを籠絡させる事に決めたんだ。そうしたら君は直ぐに婚約を破棄できると思った。だけど君は嬉々として婚姻に乗り気になってしまった。」


「…それ…は…。」


「君はこの体質のせいで誰とも結ばれずに済む白い婚姻を望んでいるようだけど、俺は全てを知っていて君に婚姻を申し込んでいる。」


髪を梳く手が止まり後ろから包み込むように身体を抱きしめてくると左肩に重みを感じ首だけで振り振り向き手で押し返すが抱く力を込められまた微動だにしなかった。


「っ!そうだとしても、私は貴方との婚姻は望んでいないわ!」


「はぁ………。」


肩に息がかかりファーレが頭を上げると重みは消え瞳はファーレの冷めた視線とぶつかった。


「……モイヒェルに俺以外の優良な相手を探していると言われた時に何となく信じられなくて色々と訳ありな相手にも声を掛けていて本当に良かったよ……。」


(モイヒェルは一体…)


「?!……っ!!…。」


モイヒェルのその行動について考える余裕は与えられず、抱きしめていた右手で首を掴まれると力を込められ、息苦しさを感じて顔が歪む。


「君は…あいつに何を差し出したの?」


「っ!何も…渡した…事なんて…無いわ!!」


「……そう、何だ…安心したよ。」


首を圧迫され上手く出せない掠れる声で否定すれば首を掴んでいた手を離すと何事も無かったかの様にまた髪を弄り始め流れていた横髪を耳に掛けてきた。


「はぁ…はぁ…そうよ!もういい加減離して!!!」


何か終わったのか確認するように肩に両手を乗せて身体が遠くに離れるのを感じると変に力が入り疲れた身体をファーレの足から抜こうと手で足を押して藻掻き身体を左右に揺らした。


「まだだよ。」


そう言うと直ぐにまた身体を寄せてくると、後ろ髪を手で丁寧に分けられ今まで隠されていた項部分の広範囲に生暖かい感触と鋭い痛みが走り身体が強張った。


「………ボイティ…君がしたい事は何でも手助けするし、フリーデンだってこのまま君が管理をしていて構わない。」


「………。」


痛みの元は離れたが、脈打つ心臓が首に移動したかと錯覚するほどの鼓動音が鼓膜に大きく響き熱が一気に集中していく。


「でも資産も資金も潤沢だと婚姻後に君が変な気を起こすかもしれない…。予定が無い日はその声を心置きなく俺だけに聞かせて。この顔は嫌いじゃないでしょ?」


「…………聞かれた時に好きな所が出でこなくて唯一の取り柄を伝えたけれど、私は好きとは言っていないわ。」


「………それでも僕達は今日婚姻を結ぶんだ…。」


少し悲しげな声が聞こえた後”カチッ”と何かを髪に取り付けのただろう頭に重みを感じると拘束していたファーレの足が解かれ気を張り続け疲れを感じた身体はそのまま前のめりに倒れそうになるのを後ろから抱き留められた。


「よし出来た!そろそろ時間だから向かおうか。」


「……こんなのふざけないで……。」


途中から何となく髪を整えていた事は分かっていたがこんな方法を取ってきたファーレに力なく文句を伝える。


「ふざけてないよ。君が誰にも触られないようにこのまま会場に運んであげるからね。それに……。」


「……ッ!」


「これなら誓いのキスもしやすそうだ。」


身体を横抱きにして抱えられると間近に近づけて来る顔を両手で止める。


「………本当…に失敗したわ…。」


「俺は…遅くなったけど成功したよ!!」


至近距離で本当に幸せそうに微笑むファーレに嫌気を感じ不機嫌な顔で文句を告げたがやはり彼には通じないらしく抱きしめる腕に力を込めると余計に破顔するだけだった。


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