(12)
執事に本問者が来たと通されて入って来た彼は今日の式に呼ばれているのだろう、髪を後ろに流し固め黒の礼服を着た姿で登場した。
「いきなり来てすまない、どうしても話しをしておきたくてな。」
「時間はあまりとれませんが、どうぞおかけください。」
オクラドヴァニアに向かい側の椅子を勧めると侍女が彼の分のお茶も用意し始める。
「それは大丈夫だ。家長殿に聞いて会うとしても今日のこの短い時間しか取れないだろうと先に連絡を頂いている。」
「父から…そうだったのですね。」
オクラドヴァニアは向かいの席に腰かけると今日の訪問は先に父に確認していた事だと聞かされ親族ではない男性を婚姻式前なのに家令達が何故案内したのか納得した。
「君に助けて貰った感謝と、不本意な婚姻を結ばせてしまった事を会って謝罪がしたかった。」
「……お気になさらないで下さい。その後ラヴーシュカとは如何ですか?」
真剣な顔で告げられたが途中からは兎も角、あれは殆ど自分の為にしたようなものだったので何処か後ろめたくなり、あの後ラヴーシュとの婚姻にでも話が進んだのだろうかと話題を変えた。
「……あの後直ぐにお互いの意思で別の道を進むことにしたのだ。」
「え…?あの件が原因でしょうか?」
まさか助けた2人が別れていたとは思ってもいなかったがあの父の剣幕にラヴーシュに思うところが出来たのかもしれないと考えれば申し訳なくなる。
「そうとも言えるが、もしかしたらこの件が無くてもいつかは別の道を選んでいたのかもしれない…。」
「そうですか……。」
オクラドヴァニアの歯切れの悪い物言いに何と答えて良いのか分からず困りその先の話しを続けられずにテーブルの何もないところに視線を下を向けてしまう。
「こんな話しをする為に来た訳では無いのにすまない…。」
「いいえ、私から聞いた事です。こちらこそ何も知らず申し訳ございません。」
「っはは。」
「っふふ。」
私の様子に申し訳なさそうに謝るオクラドヴァニアに私も謝り返し視線が合うと二人で苦笑してしまう。
「今日は君に贈ろうと思っていた茶葉を持ってきている。落ち着く効果があるらしくてな、最後に一緒に飲んではくれないだろうか?」
「それは、ぜひ頂きます。」
そう告げると侍女に向かって手を挙げた。不思議に思ったがもう家令に渡していたのだろう、侍女は新しいカップを用意して見知らぬ可愛らしい入れ物に入った茶葉でお茶を入れていく。
(昨夜の香とよく似た香りだわ…、どこの国の品なのかしらね?)
忽ち辺りには昨日モイヒェルが焚いた香のように爽やかな甘い香りが漂い、きっと同じ国で作られているに違いないと思ったが今それを聞くのは雰囲気的に憚られた。
目の前に置かれたお茶を一口飲むと香りは甘いが味はすっきりとしていてとても飲みやすく、何処か力が入っていた身体が緩み落ち着く言っていた効果が実感出来た。
「…口に合っただろうか?」
「ええ、仰る通りとても落ち着くことの出来るお茶ですね。」
何故か心配そうに問われたが、本心からの気持を伝えれば安堵した表情を見せた。
「そう言って貰えて良かった。」
(今なら何処の国の茶葉か聞いても問題なさそうね。)
香りが気になっただけだが飲んでみて味も気に入り、何処で手に入るのか教えて貰おうと思ったが続く言葉に黙り込んでしまう。