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「はぁ、あの日から出される事が無かったから分からなかったけれど、このお茶本当に美味しかったのね。」
紅茶を眺めていた視線を外し口に含めば花の香りが広がり味は当時の記憶とは全くの別物で苦味も少なくスッキリとしていてリアンが言っていた通り自分の好みの物だった。
(まさか婚約を解消せずに憂いが無くなる日が来るなんて想像もつかなかったわね…。それにどんな理由であれ相手からのお茶会日の変更なんて受け入れられなかったわね。)
あの日決まった婚約は解消される事無く続いていたが、決まった時の様な鬱々とした気持は無くなり、予定が変わり婚約者が訪れる事になった本日も穏やかな気持ちで待っていた。
「ふふっ…。」
(それに翌月迎える婚姻式をとても楽しみにしてると言ったらきっと固まってしまうわね。)
紅茶により思い出した以前の自分なら絶句しているだろう今の状況を想像すれば可笑しくて笑いが漏れた。
(本当…変わるものね。)
まだあどけなさが残る頬を両手に乗せ池の反対側の森にしか見えないが庭師により手入れされている緑深い庭を水面の反射によりオレンジ色が濃くなった赤褐の瞳を向けた。
(あの時何となく思い付いた自分には感謝しかないわ…。)
少し強めの風が吹き両サイドを編み込み後ろに纏めた桃源花と同じ色の少し癖がある腰まで伸びた髪がふわりと遊ばれだすと、向かいの木々も風により揺れ動きあの時と似たような状況に口元が自然と綻み、視線を大きな庭の1か所だけに向ける。
(さて…伝える時期はいつが良いかしらね?)
きっかけとなったその場所に懐かしさを感じる見つめるとあの時の光景が浮かび上がり、目を細め口元は愉し気に弧を描き今度は紅茶の味に変化を起こした思い出に浸り始める。