(7)
「お父様達はこれからパフィーレン姫様のお輿入れでお忙しくなるのですよね?何故日程が延期では無く前倒しで変更になるのですか!?!」
予想もしていなかった話しに不満が入り混じった疑問を口にすると父は呆れた顔で首を左右に振り口を開いた。
「……順番に説明をしようとしている!少し黙って聞けないのか!…婚姻式の予定が早まったのは光家の呪い師達が2日に渡り導き出したらしい。」
「?……光家の…呪い師達が?…光家と関係の無い婚姻式の日程を占ったのですか?」
父の説明に更に疑問は深くなる。
光家の呪い師達はその名の通り光家の吉凶や政の占いを行う為だけに存在している小集団だ。
表に出ることは余り無いが式典で極稀に見ることがあり、皆頭迄覆う淡桃色の装束に濃桃色の帯を腰に巻き、顔は長い白色の綿布で隠されたその素性は光家の者しか知らず他からか見れば謎は多かった。
「はぁ…。まぁ、そうだ。」
「………。」
(パフィーレン姫様が相手なら分かるけれど…?でも、光家の方々が婚姻式に参加される為に吉凶を呪い師にお願いされたのなら何とか納得は出来るけれど、それならパフィーレン姫様のお輿入れが終わってからの方が……)
小さな溜息を吐いた父の肯定する声が聞こえ、このあり得ない話しに答えを求めたいが黙り込み、自分の中で勝手に理由を想像し始める。
「ボイティよ、お前も光家と3公将家の結び付きが強いのは知っているだろう?」
「?はい。」
この国では当たり前の事を聞かれ疑問を感じながら短く返事をした。
「パフィーレン姫様の婚姻によって忙しくなるだろうからと光家の家長様がスヘスティー公将家に婚姻祝いで欲しい物を尋ねられ……
途中で父は1度話しを切ると目を伏せ少し悩みながらも続きを口にした。
その際にファーレ殿が直近でお前との婚姻の良き日を光家の呪い師達に占って欲しいと望んだらしい……。」
「!!?!!?!!?」
事実は想像した以上に衝撃的なものだった。
(あれは一体何なの!?頼まれたからと言って光家以外の人間を光家の呪い師達に占わせた話しなんて何処からも聞いたことが無いわ……!)
この国だけではなく、諸外国の要人でもその導き出される結果の精度に占いを望む者も多くいたそうだが、光家家長は柔和な笑顔で話しを流すだけで、誰1人叶った者はいないとサロンでも耳にしたことがあった。
「今回何故占ってくれたのかスヘスティー公将家家長様も理由は分からないそうだが、パフィーレン姫様の婚姻決定も重なり光家家長様も何か思う所があったのではないかと言っていた。勿論他言してはならないぞ。聞いているのか?…本当にお前を会談の席に着かせなくて良かった。これじゃあ話が先に進まなかったな。それと……
そのまま呆れたように話しを続ける父の言葉は、目の前ではなく何処か遠くの方で話しているのでは無いかと思う程その後の話しは耳には入ってこなかった。
執務室から出てもまだ呆然とする頭は取り敢えず婚姻式の日程の変更をモイヒェルに伝えなければと握らされたあれからの手紙を手に部屋に戻り日程変更のみを書いた手紙を呼び出した伝書バトに括り付けて放った。
(それにしても高々公将家と子将家の婚姻式の日取りを頼まれたからと言って何故国一番を誇る光家の呪い師達が占ったの?…光家家長様に思う所が有ったとしても不自然すぎるわ……。)
その後スルジャが用意したお茶を部屋で一人飲みながら、考えても仕方が無い事に頭の中は支配され悩み続けたが、ふと大事な事に気がついた。
(怒涛のように過ごしているけれど、まだ学院を卒業して6日しか経って無いじゃない!!……教師も付けずに終わってしまうわ……。)
元々嫁ぐ予定だった最後の花嫁修業の為に予定は入れていなかったが侯将家と公将家では内容が違いすぎると教師に辞退され、現在別の教師が決まるのを待っていたが婚姻が早まる事で修業も無く嫁ぐ事になる不安と苛立ちから“親愛なる僕の人魚と”書かれた手紙を読むこと無く破き捨ていつも通り寝室でありったけの枕を投げ散らかしてから不貞寝した。
ーーー
ーーバサッ!
(はぁ…。また駄目か……。)
様々な薬品が置かれた薄暗い部屋に1人居たモイヒェルは先程やって来た伝書ガラスの足に巻かれた金属に書かれた「✕」の記号を見て落胆した。