(5)
ーコンッコンッ!
(昨日はリアンの剣幕に1度諦めたけれど、やはり貴重な植物だもの諦めきれないわよね。)
翌朝を迎え起こしに来た侍女に身支度を整えて貰い、昨日何故か休みのリアンが絶滅した筈の秘香枯を手に文句を言いながら駆除しているのを見つけ残して欲しいと懇願したが、我が家所では無く国に掛かる責任何て取りようも無いとその時は諦めた。
(花は隠せなくても種なら植えて水を与えない限り持つだけなら問題無い筈よね。)
リアンと別れて散策した時に気が付き今日はこれから庭に探しに行こうと意気込んでいたら自室の扉を叩く音が聞こえ執事が入って来た。
「お嬢様スヘスティー公将家から急ぎの封書が届いております。」
「?……ありがとう。」
(どうしたのかしら?昨日お父様が返事を送った筈だけど行き違いがあったとか?取敢えず確認しなくてわね……。)
昨日了承を伝えた筈のスヘスティー公将家から届いた急ぎの封書を確認すると、ファーレから3日後に時間を取って欲しいと書かれた内容に疑問を感じ父に相談に行くと、父にもスヘスティー公将家家長から同じ内容の封書が届いていたらしい。
「お前にも届いたのか?」
お互い疑問を感じながらも、其々了承を伝える旨の手紙をしたため送ると、その数時間後には突然パフィーレン姫君のスピーア国への輿入れが2か月後に決定したとシュランゲ著の号外が発行され国内中が慌て、その日の昼頃には光家から正式に輿入れが発表され国内中は祝福に包まれた。
(スピーア国とビッダウ国にそんなに縁があったかしら?でもパフィーレン姫君の輿入れが決定したのならこれからお父様たちがお忙しくなるものね!きっと婚姻の日取りの1度延期を伝えに我が家に来るのだわ!もしそうなら相手を探す時間が伸びそうね!!)
パフィーレン姫君の輿入に関する情報をスヘスティー公将家が一早く知り、昨日決めた日取りを延期する為に来るのだと察して、相手探しに少し猶予が生まれそうな状況に安堵した。
(あっ、でもあれが来るのか…。)
「はは。はぁ〜。」
然し話し合いにはファーレも来るのだろうと疲れた笑いが漏れつつ約束の3日後を待った。
約束の日を迎え玄関の入り口前には父と家令達と共にスヘスティー公将家の馬車を待っていた。
母は自分が居なくても問題無いだろうと昨日早くに領地に向かってしまった。
「くれぐれも粗相の無いようにするのだぞ!」
「分かってます。今朝から何度も何度もいい加減にして下さい。」
「何度言ってもお前には言い足りない気がするからだ!」
「…………。」
「旦那様、お嬢様、馬車が見えてきましたお静かに。」
「…………。」
「…………。」
執事長のヴァルターに声を掛けられ父と共に黙り込み、約束の時間少し前にスヘスティー公将家の家紋が入った馬車が3台我が家に到着した。
(さすが公将家立派な馬車ね……、あぁ気が滅入るわ。)
私も含め新人の家令に至るまで顔に出しはしなかったが其々の緊張感が高まり、御者により扉が開かれると馬車からは薄紫色の短い髪を後ろに固め、紺色の礼服姿のファーレの父であるスヘスティー公将家家長が降りて来た。
「エクソルツィスムス子将家家長殿本日は急な申し出に対応していただき感謝する。」
「スヘスティー公将家家長殿とんでもございません、わざわざこちらに足をお運び下さり恐縮でございます。」
他に降りる人がいない事を確認すると出迎えた父は平然と前に出て公将家家長に挨拶を始めた姿に、父に尊敬の念を覚え眺めていると挨拶を終えたスヘスティー公将家家長が私に視線を向けてきた。
「君が我が義娘になるボイティー・レナ・エクソルツィスムス嬢かな?」
「はい、スヘスティー公将家家長様お初にお目にかかります。婚約期間も無く突然嫁ぐ私に対して義娘とお呼びくださるお優しいお言葉とても嬉しく思います。」
突然声を掛けられ喉の奥が渇いたが、背筋を伸ばし、引き攣りそうな表情筋を抑え微笑むと何とか声を絞り出し形式通りの礼で挨拶を交わす。
(大丈夫、問題無く出来ている筈よ。)
公将家家長の口元は微笑んだままだったがファーレによく似た金色の瞳は私を品定めをするように変化すると、自分の背筋が冷えてきたのがわかる。
(うぅ…、この瞳苦手だわ。)
私の姿がどう映ったのかは分からないが、視線は変わらないまま表情は柔らかいものに変化しファーレに似ているその表情に余計恐怖を感じた。
「これから私は君の義父となるのだからそんなにかしこまらなくても良い。それと君には我が家と息子からの贈り物を持って来てある。こちらの話が終わるまで品を確認しておいてくれ。」
「……かしこまりました。お義父上様。」
安易に話し合いの席に来るなと分かるその言葉に義父と呼び了承を伝えると、少し意外そうな顔をした後に眉を下げて表し難い表情を浮かべてきた。
(え?)
瞳にはもう品を定める視線は無かったがその表情を不思議に思い眺めると、スヘスティー公将家家長は父に向き直り今回の訪問の話しをとそのまま家令に案内されながら父と一緒に応接室へと向かって行った。
(………あの表情は何だったのかしら。)
あの何とも言えない視線の意味は分からなかったが、話し合いが終わるまで自室で待つことにして、スヘスティー公将家家長が持ってきた品を執事達に運ぶように告げてその場から離れた。
(一体どれだけ荷物を持ってきているのよ……。)