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(3)


時間は少し遡りエクソルツィスムス家での茶番劇が終わった後に話しは戻る。


父と母と兄と共にファーレとオクラドヴァニアを見送った後、何としてもこの婚姻からは逃れるべく部屋で待機しているだろうモイヒェルを頼るため急いだ。


(狙いが何か分からないけれどもし最後の言葉に関係しているなら、何としても!何としても逃げだして見せる!!)


“バン!!!!“

最後に呟かれたファーレの言葉が頭の中で反芻し続け、力が籠もる腕で寝室の扉を勢いよく開けると仄暗い部屋には大きな音が響き渡り、辺りを見渡せば荷物は既に纏められ窓際に置いてあるが、そこに人影はなく肝心のモイヒェルは大きな音が響く前に人の気配を感じていた筈なのに部屋のベッドの上で瞼を閉じて横たわっていた。


(え?人のベッドの上で何をしているの?)


その暢気すぎる態度に扉前で一瞬唖然としたが直ぐに扉を閉めてベッドに近づいて行くとその瞼が開き金緑の瞳がこちらを向いた。


「ボイティ終わったか?仮眠も取ったし今からもう行けるぞ?」


ベッドの上で身体を伸ばしてから降りると意地の悪い顔を向けて手を伸ばしてきた。


(そうかこのまま……ってだから、無理よ!)


どうやら暢気に寝ていた訳では無いらしいモイヒェルのその言葉に今直ぐに頷いてしまいたい衝動に駆られるが、もう存在したまま逃げ出すことは出来ないと差し出された手を両手で力強く握りしめその瞳に真っ直ぐ視線を合わせる。


「モイヒェル今直ぐに私の貯金を全額引き出してそれを持参金に白い婚姻を承諾してくれる相手を探して来て欲しいの!!」


ファーレが濁し唯一確実に約束できなかった条件を承諾してくれる相手を探せば、まだ婚姻を退けることが出来るかもしれないと僅かな希望を抱きつつも、探すための時間が長くは取れない事への焦りから話し合いの結果を飛ばし余裕なく婚姻相手探しを頼むと、モイヒェルは目を見開いて驚いた表情を浮かべた。


「ちょっと待て…一体話し合いで何があった?」


「ああ…そうよね、それが………


モイヒェルの表情が真剣なものに変わり、ゆっくりと落ち着いた声で話し合いの件について問われ、その様子に我に返ると、応接室での出来事を説明を始め、全て伝え終わると握られている手はそのままに急に脱力すると蹲った。


「最っ悪だ…。」


その思いがけない行動に驚いたがその体制のまま低い声で呟いた一言にやはり無理かと思いモイヒェルの手を放そうと手の力を抜きかけた時、逆に力を込めて握り返されその行動に身を強張らせると反動をつけて立ち上がり両手から手を抜き取り逆に両手で包み込んできた。


「モイヒェ……」


「分かった。待ってろ。」


「えっちょっと!!まっ……。」


その一連の動きに戸惑いを覚えたがモイヒェルは真剣な表情のまま一言呟くと手を放し窓辺へと向かい、いつものように消えてしまった。


「………。」


(でも、待ってろと言われたのだから相手を探してくれるってことよね?……なら私は…)


その行動に唖然とし1人になり静かになった寝室で立ち尽くし暫くそのまま動けずにいたが、モイヒェルの言葉を反芻し漸く彼が願いを了承してくれた事に気が付き、今自分が何をするべきか悟った。


「この荷物を元の場所に戻さなくてはね……。」


窓辺に纏めて置いてある荷物を解き明日起こしに来る侍女達に見つかる前に元の場所に戻し始めた。


ーーー


「あの馬鹿次は何を考えて居るのだろうな……。」


淡い月明かり下バルコニーで蜜酒を飲んでいると屋敷を出ていく人影が映りその方角にどの部屋から出て来たかは察しが付き苦笑が漏れる。


「エレミタ?貴方がその様に笑う姿は久し振りですね。」


「母上……。」


ランタンを持ちベランダに1人訪れた母は、朱色の瞳を瞬かせ意外そうな顔をしながら向かい側の椅子に腰を掛けた。


「もう連絡は入れましたか?」


「はい。決まった後伝書バトにて相手国には連絡を入れております。」


「そう……。受けてくれれば良いけれど……。」


今日で随分疲れたのだろう、睫毛を伏せて出来た陰がより一層色の悪い顔を目立たせる。


「然し父上には困ったものですね。母上に相談もされずにあの様な……。」


「貴方にもだけれど子供への愛情が深い方なのよ、そんな風に言わないであげて頂戴。」


「私達と言うより母上への、だと思いますけれど。」


「………。」


元公将家の令嬢だった母は、どんな理由からかは分からないが下の家格である父の元に嫁いだ。

気質がよく似ているからと小さな頃から色々と教えて貰ったが似ているということは只自由を求めただけなのかもしれない。


「10日以内には連絡が来るでしょうけれど私が到着する前に訪ねて来たら対応をお願いね。」


「はい……。」


そう言うと母は立ち上がりバルコニーを後にしていった。


(どんな状況になるのだろうな……。)


ランタンの明かりが無くなったバルコニーはまた淡い月明かりのみの静かな空間に戻り、1人物思いに耽る場に変わる。


(本当にバカだ…。)


結ぶ筈が無かった相手との婚姻が決まってしまった妹の今後を想像すれば何とも言えない気持ちになり蜜酒を飲む手は止まらなかった。


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