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足元が音を立てて崩れていくのが分かり腹の中に入るくらいなら道連れにして落ちようと、全て嘘だった事を告白するため父の方を振り返ろうとしたが素早く両腕を取られ見たことが無い柔和な笑顔に背筋が凍った。
「【今この場での話しで終わりそうに無いなら使いを頼んで父を呼んで貰っても良いんだよ?そうなれば君が僕を呼んだ理由もちゃんと父に説明できるし、最後の意向はボイティと僕の話しになる。きっと困る事になるよ?それなら今ここで話しを終わらせた方が良いと思わない?】」
顔を近づけ耳元で囁くその言葉に誰がとは聞かなくても分かり、呼ばれたらどうなるかは火を見るより明らかだった。
(この▓▓▓▓…本当に何が目的なの?)
耳元からまた正面に戻ったファーレの変わらない表情に取られた腕を先程のように振り払う事もその言葉に何か返すことも出来なかったが瞳だけは相手を睨みつける。
「ねぇ?ボイティ黙っちゃってどうしたの?他に聞きたいことは無い?もし君が不安に思う事を全て解消できたのなら僕と婚姻を結んで……一緒に死を迎えるその時まで隣に居て欲しい。」
掴まれた腕を離され右手だけを指先で持ち上げられ口元に持っていかれると唇を寄せ2度目の婚姻の申し込みを受けたが、先程の様な笑顔は無く恐怖を感じる程の真剣なその表情に最初から後ろに落ちる穴など無くただ見上げても分からない程高い真っ黒な壁際に追い詰められていた事がわかった。
(スヘスティー公将家家長が来てから全てを説明して嘘をついたなんて言ったら、ヴィルカーチ侯将家家長も呼ぶことになって3将家の問題になってしまう……。それに▓▓▓▓は自分の事を棚に上げて責任と言う形でお父様に私との婚姻を迫ってくるかもしれない……そうなれば今より婚姻の条件は悪くなる…。)
頭の中で大きくなり過ぎる問題にこれは隣国に逃げ込む所じゃなく存在をこの世から消さない限りどうにもならないと諦め、最後の言葉に引き攣りそうな口元を何とか抑えきつく瞼を閉じると口を開いて何か言ってしまわないように一度頭を下げてファーレの婚姻の申し込みを受け入れる。
「本当に!嬉しいよボイティ!漸く僕等は結ばれる事が出来るんだね!」
そう言いながら抱き締めてくるファーレに今だ気を張っていたお陰で声を耐える事が出来たが、これからはこの状態を保って日々生活をしていくのかと想像すれば絶望を通り越して絶無に陥る。
(この先どうなるか、何も想像できないわ。)