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「ボイティそれは失言だ、他の将家の事は知らないがスヘスティー公将家の家令達を舐めてもらっては困るね。家長が不在だからと言って数十年家を守れない程度の人間が我が公将家の屋敷で働いているとでも?それと……
「ッ……!!」
(失敗した、この話しを家同士の問題にでもされたら父だけでは済まないことになる…。)
赤髪の前髪から覗く金色の瞳を見開きその有無を言わせない冷たい視線で見降ろされ、内臓を抉られるような低く響く声に固唾を飲み、視線を外せば一瞬で首元を噛み千切られるのでは無いかと錯覚を覚えるその迫力に目を離すことが出来ず全身全ての神経がファーレに集中して、この後にどんな話しが続くのか血の気が引いていくのを感じ緊張で嫌な汗が背中を伝いただ彼の言葉を待つ。
数年でも付いていく行くし、数日でも付いていく。1日でも、半日でも女性限定のサロンに行く日は中に入れなければ馬車の中で待っているよ。期間は気にせず何処にでも君の好きな所に一緒に行こう。……ねぇボイティ後は?」
「…………。」
ファーレは雰囲気をいつものように柔らかいものに変え機嫌の良さそうな顔でどんな期間でも場所でも付いてくると手を伸ばし次に聞きたい事を求めてくるが雰囲気に飲まれていた私はすぐに切り替わったファーレに呆気に取られ本当に私とファーレの話しにされていたらと思うと恐ろしくなり、伸びてきたその手に恐怖を感じ払い除けると色が悪くなっているだろう自分の顔にそれでも張り付いていた笑みを深くして気を張る。
「大丈夫。僕は君が望む事を何でも叶えてあげるよ。ボイティ……。」
振り払われた自分の手を確認するとファーレは愉しそうに笑みを深めて畳みかけてくるがそのどこか気持ち悪さを感じる表情に相手にまた呑み込まれそうになるのを必死に耐えて、婚姻を結ぶ以上求められる逃げられない問題についてなら確実に撤回出来るだろうと足に力を込めるとまっすぐ相手を睨みつけるように見据える。
「嫁ぐにあたって白い婚姻でと言ったらどうする?それとこれは私の意向でエクソルツィスムス子将家には関係ないことよ。」
何でも叶えると言っていたが流石に嫁いでも責任も責務もこなさい花嫁など論外だろうが、私の作り話によって呼び出されここまで連れて来られているファーレにどんな思惑があるかは知らないが、何故かこの作り話を真実にしようとしてくる彼に怒り狂われ虚仮にされたと責任を追及される可能性も高く、あくまでも自分個人の意思だと先に主張する。
(家にかかる責任の取り方なんて分からないけど、個人でなら、エクソルツィスムスの名を捨てた後で考えれば良いわ。)
私の言葉にファーレから愉しそうな笑みが消え手を口元に寄せると視線を斜め下に向け、その仕草と表情に漸くこの茶番が終了しそうな気配を感じ相手を見つめたまま扇で口元を隠し、ため込んでいた息を吐くと今も尚悩み続けている相手が出すその答えに期待を込めた。
「………流石にそれは理由を聞かずに直ぐに良いよとは言えないけれど、それなりの理由があるなら勿論君の望みを叶えるよ。それともし子供が出来ない事を想像しての話しなら養子を取れば問題ないし、ちゃんと2人で話しをしていこうよ。ふふっボイティの望むことを僕が全て叶えてあげられそうで嬉しいな…ほらボイティ後は?」
「…………。」
漸く口を開いて出したものはやはりとも意外とも言えないもので、ただ確かなのは別の道に通じる筈の自分の後ろの道が崩れて、落ちるか目の前の人物の腹の中に入るしかない状況まで追い込まれている事だ。
(今ここで理由を言った所でそんな事は気にしないよと返してくるのは目に見えている。これ以上の理由……だめだ▓▓▓▓はきっと私が言った事を全て叶えてしまう……。ならいっその事……)