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次に考えていた確実に撤回せざるを得ない話しを始めようとするとファーレは話しを被せてくるとそのまま続けてきた。
「それと父にはもう先に話しを通して君との婚姻については公将家家長としての了承を貰って来ている。これで君の不安は全て取り除けたかな?まだ何かあれば今この場で何でも聞いてくれて構わないよ。」
(公将家家長の了承を既に貰っている?!確実に得られないと思っていたのに…。でもこれは公将家としては難しい筈よ!)
「では、もし私が嫁いでから何か事業を始めたいと言ったら?」
(オクラドヴァニアとの婚姻生活に不安が無くなって生涯使う事は無いだろうと思っていたけど、まさか抜く機会があるとは思っていなかったわ。)
この問いかけについては父と母と兄さえも何とも言えない表情に変わったが文句を告げる事をしないのは、それくらいの度量も無い相手は最初から相手にしなくても良いのだと小さい頃から母に刷り込まれ、万が一望まない相手から婚姻を申し込まれたら使いなさいと言われているからだ。
そしてこの言葉を告げるという事はもう気付いてはいるだろう家族全員に大声で婚姻は望んでませんと主張したようなものだった。
「好きにすれば良いよ。僕個人としてはもちろん何でも協力するし、それに事業を起こすならスヘスティー公将家の名はヴィルカーチ侯将家の名よりどの国でも使えてとても便利だと思うよ。心配なら書面に残しておくから安心して。他に聞きたいことは?」
「……………。」
女性が働くなど家格が上がる程に難しくなり、嫌がられたり煙たがられるのが通常だが悩むことなく好きにしていいと許可を出し、内容を書面に残すということは確実にこの条件は約束されたものになったが、余りにも早いその答えに困惑して何も言葉を返せずいたが、このまま何も言わなければ求婚を受け入れるしかなくなると必死に次を考えた。
(後後後後後後………お父様とお兄様の前だけれど仕方が無いわね……。)
「………なら、婚姻後数十年単位で家を空けたいと言ったら?」
嫁いだとしても公将家夫人としての責任を果たす気は無いと取られかねない発言に父と兄がどんな表情になっているのか怖くて見る事は出来ないが、これは流石に公将家どころか何処の家でも直ぐに断ってくるだろう条件の筈だと反応を待つ。
「そんなの決まっているじゃないか、僕も一緒に行くよ。」
「ん?」
これも悩むことなくしかも断ってくるどころか一緒に付いてくるとの想像を超えてきた発言に我慢できなかった疑問の声が一言漏れると扇で口元を急いで隠す。
「数十年だろ?なら君が拠点にしたい場所に家を購入して其処で暮らせばいい。一か所ではなく様々な場所を巡りたいなら諸国の友人からセカンドハウスを借りてもいいし、その国の宿を転々と泊っても良いよ。」
「待って頂戴、公将家はどうするの?…そんな事をしていたら取り潰しになるわよ?」
とても楽しそうにあり得ない夢物語を語っているファーレに自分が言えた義理ではないがあまりにも公将家を蔑ろにする発言に流石に心配になり口に出すとファーレの雰囲気が重いものに変わった。