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「………。」
(…え…?今なんて?)
「エクソルツィスムス子将家家長様謝罪は必要ありません。確かに僕とボイティは1年前から想い合っていました。」
空耳かと思ったが父と母とオクラドヴァニアが驚きの視線をファーレに向けていることで先程の言葉が聞き間違いではないことを実感した。
兄は驚くことは無かったが笑顔が深くなったことは見ないふりを決め込んだ。
「それでは…娘の話しは事実だと?」
「はい、このような状況に無ければ僕は彼女の本心を知る事は出来ませんでした。」
(信じられないけどあのファーレが……話しを合わせてくれている…。付き纏われて迷惑だなんて言っていてごめんなさい、ありがとう!貴方は最高の友人だわ!)
少し震える声で信じられないと言いたげな父が確認を取るもファーレはそれを力強く肯定する。
何時も雰囲気を読むことなく近付かれ心底迷惑だと思っていた相手がまさか話しを理解し合わせてくれた事に一に賭けて良かったと彼に心から感謝した。
「然しボイティ嬢の事を想えは婚約者からの酷い裏切りを目にしたエクソルツィスムス子将家家長様が怒りを収められない程に腹が立つ状況だとは思います。それに…………
続く言葉にファーレが切なそうな表情で父を見やれば父は神妙な顔で同意を示し頷き、オクラドヴァニアは悲痛な面持ちで下を向きこの作り話を自分と兄以外は誰もが信じきっていた。
(ファーレの作り話と私の作り話の何処が違うのかしらね?私も同じ様に喋れていたと思うのだけれど……お兄様には通じていないようだけど謎だわ?)
微笑む表情を変えることなくこれで一安心だと様子を眺めていたが今一つ自分の時と違う状況に納得出来ず少し解せない気持ちが湧いてくる。
せっかく彼女が勇気を出して告げたのですから僕もずっと伝えたかった想いを今お伝えしても宜しいでしょうか?」
「ええ、構いません。お互い今後の為に後悔が無いようにするのが1番ですからね。」
(特に話す事は無い筈だけど……最後に話す事でこの作り話を綺麗に纏めるのかしらね?どんな話しがきても合わせなくてわ。)
父と語っていたファーレが席から立つのを確認して、同じように立ち上がると何故か皆に背を向けるように体制を変えたファーレの正面に立ち皆を見渡せるように向き直り見つめ合う。
真剣な表情で見つめられいつもなら冷ややかな視線を向けるが、今日は自分の素晴らしい未来を救ってくれたファーレに感謝の気持ちが届くように満面の笑みを向け彼からの言葉を待つと、徐に跪き右手を取られ手の甲に口づけを落とされる。
「ッん!」
指先と手の甲に擽ったい感触を感じ声が漏れ左手で口元を抑え我慢していると、ファーレがいつもと変わらない表情を向けてきた後そこから続く言葉に衝撃を受ける。
「ボイティ、僕と婚姻を結んで欲しい。」