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応接室の扉前に到着するとヴァルターによって開けられ、中の様子から話し合いは始まったばかりのようだった。
重厚な作りの応接室は何時にも増して空気が重い気がしたが直ぐに奥正面に座っている父と母に礼をすると4面席の空いている右側の椅子に腰を掛け、正面に座る青い顔のオクラドヴァニアの後ろには領地から戻って来ていた、とてもいい笑顔の何か言いたげな兄が何故か控えていた。
(とてもいい笑顔だわ…、これは相当怒っていらっしゃるわね。)
兄と目が合い視線を逸らすとオクラドヴァニアを安心させるように微笑んで見せた。
「エクソルツィスムス子将一体どうしたのでしょうか?僕がボイティ嬢をどう想っていたか聞きたいとの伝言を受け我がスヘスティー公将家の家令達も驚いておりました。」
父と母の正面私の左手側に座っていたファーレは少し困った顔をしながら今回の件を父に訊ねていたが、どうやら家令は話しを作ることもなくただ私をどう想っていたか聞きたいと呼び出したらしい。
「この度は我が家の家令が不躾なお願いを口にし公将家を混乱させてしまい大変申し訳ない。それにも関わらず呼び出しに応じて下さったファーレ殿には感謝しかないが、その内容の件でどうしても確認を取りたい事があるのですが宜しいかな?」
「何でしょうか?」
我が家の家令の心の強さと何故そんな理由だけでスヘスティー公将家はファーレが我が家に来る事を許したのかあり得ない事態に頭を抱えたくなったのは家族も同じだった様で其々少し眉を寄せると迎えに行った家令の態度への詫びを父が告げ本題に入り始めた。
「この度娘の婚約者であるヴィルカーチ侯将家子息オクラドヴァニアが不貞を働きまして、処罰をしようとした所娘も貴方と1年程前からお互い口には出す事は無かったが想い合っていた事を隠していたから彼を許しこのまま婚姻を認めて欲しいと申しましてね。」
「婚姻を?」
父が経緯を説明し始めるとファーレは困惑の表情から一転眉間に皺を寄せ不機嫌そうな顔になりその場に緊張が走るが一人何とか堪え口元の笑みを崩さず様子を見届ける。
「ええ、貴方とは身分が違いすぎるので想い合っていたと感じていたのも自分だけかも知れないと言うものですから一応確認を取りたかったのですが、やはりそのような事実はなさそうですな。こんな茶番でお呼び出しをしてしまい本当に申し訳無い。」
嘘だったと父は確信したのだろう一瞬私に視線を向ける気配を感じたが直ぐに申し訳無さそうな声で私の作り話をファーレからの返事を待たずに謝罪した。
(あぁ……不機嫌そうな顔だわ、まぁそうよねそんな事実何処にも無いのに呼ばれたのだから仕方が無いわよね…。この話し合いが終わったら走って部屋に向かうわ!モイヒェル後は宜しく!)
直ぐに一を諦めこの話し合いが終わったら2人を連れて逃げ出す事を決心し、目下の悩みの種であるとてもいい笑顔を向けて来る兄も全て丸投げを決め込み彼ならなんとかしてくれるだろうと微笑みを崩さずに心の中で考えていると予期せぬ言葉が聞こえてきた。
「ボイティ…君に僕の想いが届いていたと知れて嬉しいよ。」