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「何だ?」
不機嫌そうな父に一瞬怯んだが気を張りお願いを口にする。
「オクラドヴァニア様と2人きりでお話しがしたいのですが宜しいでしょうか?」
「……それは、何故だ?」
「こうなったのも私にも至らない点があったかもしれないからです。お互い話しを……いえ理解し合う事が足りなかったのかもしれません。遅いとは思いますがこのような関係になった経緯を伺いたいと思いまして…。」
「……分かった、良いだろう。」
少し悲しげに思ってもいないことを告げれば父は納得して2人で話す機会を与えてくれた。
「ラヴーシュカだけを先に連れて行く!!それと扉の前に人は置いていく!オクラドヴァニア!変な気は起こすなよ……?」
「はい。」
父がオクラドヴァニアに睨みを利かせると、家令達によって縛られたラヴーシュカは俯き何時もは纏められていた金色の長い髪で表情を隠したまま引かれるように出ていき扉が閉められた部屋にはオクラドヴァニアと私の2人だけになった。
「オクラドヴァニア様大丈夫ですか?!」
「ああ、俺とラヴーシュカを助ける為とはいえ下手な嘘を付かせてしまいすまない。こんなにも情の深い女性なのだと気が付くのが遅…いや、最後に知れて良かった。」
縛られたオクラドヴァニアに駆け寄り隣に腰を掛けると既に諦めている彼は私に弱々しく微笑みかけてきた。真実だと思われるのも釈だが、そんなに話しが酷かったのかと少し落ち込みそうになる。
「まだ諦めないで下さい。ファーレは助けて……くれる筈?です。」
「良いんだ。君と婚姻出来ずに残念だと心底悔やんでいるが、隠していたラヴーシュカとの関係が他の者に知られて晴れやかな気分を感じている。」
父がいないのでもう嘘だと言う事を否定する必要は無いが、万が一話しを合わせてくれるかも?しれないと砂漠に落とした砂金を探す程度には極僅かに望みをかけている私はオクラドヴァニアに真実を伝える事は出来ず、ただ彼の本心からなのだろう清々しい笑顔を見つめるしかなかった。
(いえ!こんな話しをしている場合では無いわ!)
オクラドヴァニアの顔を見て数分焦燥感に浸っていたがはっと我に返り、彼に確認したい話しを思い出すと、顔を引き締め直し真っ直ぐ彼の瞳に視線を向ける。
「もし、私の言う通り助かったとしてオクラドヴァニア様はラヴーシュカをどうなさりたいですか?」
「ハハハ…君はいきなり何を……まぁそうだな……君には申し訳ないが俺は彼女を愛している。ただ君への恩は一生返せるものでは無い事は分かっているが、君が望むように婚姻してもきっと前の様に笑いかける事は出来ないかもしれないが…
万が一今回の件が上手く収まりオクラドヴァニアを助け出したとして後からラヴーシュカを隣に立たせていたと言われ婚姻が白紙になるならば今家を出る話しを伝え、屋敷が混乱する隙に2人で逃げ出してもらおうと思ったが、もし本当に私と婚姻すると言うならどう転ぶか分からない話し合いの席で結果が出てからオクラドヴァニアとラヴーシュカには隙を見て逃げ出してもらおうと、どちらにしても逃げ出す想像しか出来ないが、オクラドヴァニアはスパーンから助かる想像が出来ないのだろう答えの出ない話しを続けるだけだった。
「いえそうでは無くて、夫人として立たせたいか、側室として囲いたいか、このままの関係で居たいかを聞いています。」
「!!随分と直接的な事を聞いてくるんだな。」
「……時間が無いので。」
結果の出ないオクラドヴァニアの話しを遮り答えを用意した問に変えると、オクラドヴァニアは驚いていたが父の様子からこの時間を長く貰えない事は予想出来た。
「…なら君を夫人として隣に置いてラヴーシュカは側室として側に居てもらい。その…都合の良いことを言っていると分かっている。……済まない。」
「いいえ。ふふ、その言葉だけで充分です。何とかしてみせます。……多分?」
答えのある問いはあっさり欲しい結果が返ってきて、オクラドヴァニアの苦悶の表情からその言葉が真実であることが見て取れると、私は自分の胸に手を置き安心させるように大きなことを言ってみるが、後はこれから来るかも知れないスヘスティー公将家御子息の返答次第なので確実に守れる約束は出来きず最後は疑問で終わった。
「っクックック、大丈夫だ首が飛んだとしても仕方が無いと諦めている。もし上手くいったらこんな俺の隣に立ってくれる君の夢を叶える力になりどんなものからも守ると誓う。」
「光家や3公将家が相手でもですか?」
「ああ。諸国の王族だろうが、どんな無理でもしてみせよう。」
「ありがとうございます。こんな素敵な旦那様の元に嫁げたら怖いものなしですわね。」
少しは万が一を考えてくれるようになったらしいオクラドヴァニアは可笑しそうに笑うと、顔色が戻り始め自分よりも上の将家からも守ってくれると大きな約束を言葉にしてくれた。
(この人なら何処に行こうと何をしようとお父様がお母様にしているみたいに何時でも帰る場所を用意してくれそうね。)
オクラドヴァニアとの先の未来が少し垣間見れて、心の底からこんなに都合が良く頼り甲斐のある婚約者を無くしたくないと初めて思い、それから少し婚姻後の話しをしていると閉まっていた扉が開かれ家令が数名入ってきた。
「お嬢様そろそろお出になって下さい。」
「分かったわ。」
「公将家の方と連絡が着くまでお嬢様はお部屋に、オクラドヴァニア様は別室にてお待ち頂きます。」
「……ボイティ、君と最後に話しが出来て良かった。」
「オクラドヴァニア様……。」
夢から覚めたように瞳からはまた光が失われたオクラドヴァニアは最後の別れの挨拶のような言葉を告げると家令達によって連れられていき、その場では動くことができずただ名前を呼びその背を見送った。