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「スヘスティー公将家!!??」
「はい、1年程前に授業中に毒蛇に噛まれたのを助けたのですが、そこから何となく距離?が縮まりまして……」
ここからなら詰まることもなく話しが出来そうだと嘘と真実を混ぜて淡々と語り始めた。
「………。」
「お互いに色々?相談するようになりそのような感情?が芽生えましたが、相手の取り巻き達…いえ仲が良いだろう友人達に我が家が脅かさせるのではと言う心配と、あまりにも家格が違うこともあり……
何も言わず私の話しを聞いていた父が刀を下ろすと少し悲しそうな顔で私を見つめ始め、これは上手く話を収めることが出来るかもしれないと希望が見え語り続けた。
「そうか。」
2人共に婚約者が居るので直接的な言葉は伝えあった事がなく、私の一方的な思いかもしれないので今まで黙っていました。」
黙って聞いていた父が一言呟きこれは収めることが出来たと確信を持ち安心した私は何とか話しを纏め終わると周囲に意識を向けたが何故か皆一様に父と同じような悲しそうな顔をしていた。
(何故?そんなに悲しい作り話だったかしら?)
ボイティは全く気付いていなかったが相手の名を出して語り始めた時から表情は一切動かず、瞳から光は消え去り、この世の終わりかと思う程の悲愴感が漂っていたが、話しを終えると解放されたかのように笑顔が戻り、それは誰が見ても恋する人の顔では無かった。
「……ボイティ……我が子ながら嘘が下手だな。」
「……嘘ではありません。」
悲しそうな顔ではなく皆可哀想な子を見る目だった事が父の言葉で分かったが、もう後には引けず突き通した。
「この2人を助けたい気持ちはよーーく伝わってきたが嘘は良くない。」
「嘘ではありません。」
やれやれと子供に言って聞かせるように父が告げて来るが、此処で折れればまたオクラドヴァニアとラヴーシュカに刀を向けてしまうと突っぱねる。
「……ならスヘスティー公将家御子息を今から我が家に呼んでも良いのか?」
「……あちらが応じて下さるなら。どうぞ呼んで頂いて構いません。」
(流石のお父様だって考え無しな訳では無いわよね。これで大丈夫な筈だわ。)
嘘を付いた小さな子供に脅しをかけるような父の言葉に少し息を飲みかけたが、公将家相手にこんな小さな内輪揉めで事実確認は出来ないだろうとその脅しを受け入れた。
「ほぉ………そうか分かった。では本当だったならこの2人に咎は求めず、お互いに非があったとしてお前が言う通りオクラドヴァニアに嫁がせよう。然し嘘であったなら………分かっているな?」
「はい……、分かっております。」
(お父様……正気ですか…?こうなったら……私が先に逃げて目眩ましになっている間に2人は一緒に逃げられないかしらね…。)
少し悩んで出した父の言葉と強い眼差しに目が泳ぎそうになるのと同時に、部屋に戻ったら真っ先に荷物を纏めて逃げ出す準備を始めようと決心する。
「オクラドヴァニアもそれで良いか?」
「はい。こんなに素晴らしい方と婚約していながら……申し訳ございませんでした。この首はどうぞご自由にしてくださって構いません。」
(諦めるのが早いわね!!もう少し信……粘って!)
父に見下げられ確認を取られた顔色の悪いオクラドヴァニアは既に未来は決定していると言いたげな諦めの言葉を紡ぎ弱々しく頷く姿を見て、逃げる準備を始めようとしている私をほんの少しだけ信じて欲しいと思ったが、彼も可哀想な子を見る目を向けていたのを思い出しラヴーシュカとの幸せのためにもう少し粘って生存率を上げる方法を考えて欲しいと思ったがどうやら難しいらしい。
「ではスヘスティー公将家に急ぎ馬車を!我が娘との交際についてと言えば分かるのであろう?」
「……交際ではなく…どう想っていたかですかね?お互いそのような言葉は交わした事がありませんから。」
(▓▓▓▓と交際していたなんて冗談じゃない!)
同仕様も無く名前を出してしまったが嘘でもあり得ないと首を横に振り父に訂正を求めた。
「まどろっこしいわ!!分かったどう想っていたか聞きたいでいい!早く呼べ!」
「はい!」
(あぁ……行っちゃったわね。どうしようかしら?まぁ相手が来るかもわからないわよね、来たとしても▓▓▓▓なら何とか話し合わせてくれる……訳はないわねぇ。でも万が一合わせてくれた……ら?)
スヘスティー公将家に向かって行った若い家令の背中を眺め絶望的な気分に陥り諦めたが、世の中には思いもよらない事が起こるかもしれないと、行動に移す前にオクラドヴァニアに確認を取っておきたい話しを聞くために父に向き直る。
「お父様。」