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(居た………わ。)
そこには願いも虚しく父と従者達に縛られ取り囲まれている2人の姿が瞳に映った。
「お父様!?!」
「ボイティ!!待っていたぞ!」
「これは、一体どうなさったのですか?」
絶望感から崩れ落ちそうな痛む足に力を込め、父を大声で呼ぶとこちらに注意を引き疑問を問いかけた。
「この2人が逢引していると匿名で連絡があってな、半信半疑で来てみればこの通り事実だったのだ!!」
「一体誰がそんな迷惑な事を……。」
開いたままの扇を額に当てフリーデンの事では無かったとモイヒェルに裏切られては無いのだと安心したが、自分の幸せな未来をぶち壊そうとする顔の見えない誰かに頭が痛くなり小さな声で本音が漏れる。
「ボイティ!お前はこの2人に馬鹿にされていたのだぞ!!何をそんなに落ち着いている!どのように処分したい?」
「処分って……お父様…私は別にこのままオクラドヴァニア様と婚姻して構いませんし、問題を起こしたラヴーシュカもヴェルトロース侯将家に連れて行きます。」
熱くなっている父に今回の呟きが聞こえていなかったと安心するが、手元にはよく研いである刀が握られ、どうもこうも話し合いで解決する気がなさそうな雰囲気を感じ取り肝が冷えるが、何とか自分の幸せを守りたいとこのまま予定通りに婚姻を結ぶ為に身体に力を込め直して伝えた。
「お前何を言っている?」
「何をって処分のお話しですよね?私がこのままオクラドヴァニア様と婚姻を結べば今回の件でヴェルトロース侯将家はエクソルツィスムス子将家に頭が上がらなくなり幼少期に結んだ時よりも更により良い条件で結び直す事がます。そしてラヴーシュカを連れていけば、今回騒ぎを起こした者としてあちらの家で監視されながらの生活になり、2人は近くにいても触れ合えない状況で生涯を過ごす事になるのですよ、愛する者達にとってそれはとても残酷な処分だと思いますわ。」
馬鹿な子をみる目で問われたが、表面上は確実に処罰は与えられそうな状態に持ち込める事に気づき、父の瞳から視線を逸らすことなく説明を始めた。
(嫁いでしまえばラヴーシュカは側室にしてもらえるようにヴェルトロース侯将家に話しを通せば計画に何も問題は無いもの。)
「温いことを言うな!!」
「っっ!」
「ぬる!?…ええっと!…それに……えぇっと…実は私も………学院で想い合っていた方がいたのです?」
どうやら処分案を父はお気に召さなかったらしく刀を振り上げるとオクラドヴァニアの顔面間近に刃先を向け、オクラドヴァニアは声にならない悲鳴を上げると硬直してしまう。
(私ではこのお父様を止める事は出来ないのよ、どうしてこの場にお母様が居ないの!)
ここで母や兄が居たならばもう少し舵が取れるのだろうが生憎近くに居ないため、このままでは婚約者がスパーンと消されてしまうのではないかと慌て、今の状況でお互いに非がある話にするには同じ様に相手がいた事にするしかないと架空の想い合っていた相手との作り話を始めてしまった。
「何故疑問系なんだ?」
「その……あまりにも?…身分が違いますし…私だけ?かもしれないな?……と誰にも伝えた事が無かったので……。」
口から出たものの全くそんな相手がいた事実もなく想像が付かない作り話は言葉が続かず直ぐに詰まってしまうが何とか話しを繋げた。
「何だと?私の可愛い唯一の娘を弄んだと言うことか?!誰だ!今からこれと一緒に処分してやる!!」
「いえ!違います!…いえ…その……、相手は……!?ファーレ・テン・スヘスティー公将家子息でして!」
言いづらそうにしている作り話を信じた父が架空の相手に怒りの矛先を変え刀の刃先をこちらに向けて睨みつけてくる姿に、相手を濁したままには出来無い話しになり焦る思考はパーティー会場で聞いた《僕は君の為なら何でもしてあげるからね。》の言葉が過ぎりあれなら父も簡単に手を出せまいと名前を挙げてしまった。