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「ふふ……そろそろ終わる頃かしら?これで漸くあの方と……本当にあなた方に頼んで良かったわ。」
露台に腰掛けた薄い空色の髪を靡かせた少女は誰も居ない室内にまだ幼さが残る声を嬉しそうに弾ませ、花瓶に生けられている小さな朱い花が幾つも連なって咲いた逢魔花を抜き取るとその花弁を毟り、掌に乗せては外に広がる青い空に散らしていく。
「………。」
誰も居ないはずの室内にはいつの間にか仮面を被った黒装束の人間が佇みただ黙って少女を眺めていた。
「でもね、あの方はきっと最後まで諦めないでしょう?」
「………。」
少女は振り返る事無く花弁の無くなり茎だけになった花を捨て新しい逢魔花に手を伸ばし、話しを続けていく。
「どんな手を使ってくるか分からない、そんな所も魅力的だけれど今回は駄目なの。だから今日が終わるまでは気を抜かないで見ていて頂戴ね。」
「………。」
「それでも、もし……………」
少女のその話しを聞き終えると黒装束の人間は消え去り部屋には少女1人になった。
「アハハハハ!!……フフフ…!どうなるのか本当に楽しみね……。」
花瓶に生けてあった花は全て無くなり少女の愉しげな声と共に最後の花弁は少し橙が混じり始めた空に消えて行った。
ーーー
(そろそろ良いかしらね。)
「ごめんなさい、少し気分が悪いから1度外に出たいの。馬車を止めて頂戴。」
窓から覗く風景が変わり学院が見えなくなる所まで馬車が進んだのを確認して、一度休憩を挟んで貰うことにした。
「お嬢様何かご用意致しましょうか?」
「すみません。少し急ぎすぎましたかね……。」
「ヴァルター何も要らないわ、ムッカ大丈夫よ。今日は朝が早かったから疲れが出たのかも知れないわ。少し近くを歩いて来るわね。」
「私もご一緒致します。」
「あまり遠くには行かないから大丈夫よ。少し1人にもなりたいし、すぐに戻るからヴァルターも馬車で待っていて頂戴。」
「……かしこまりました。」
心配をする御者のムッカと執事長のヴァルターを残し1人馬車から降りると、あまり遠くない辺りの散策を始めお目当てのものを見つけ摘んでいる隙に、呼んでいた伝書バトにモイヒェルへの手紙を括り付け2人が待つ馬車に戻った。
「お嬢様それは爽菊ですか?」
「ええ。」
「……もう少しこちらでお休みになられますか?」
「いいえ、もう大丈夫よ。それにあまり遅くなっても大変だわ。」
「……かしこまりました。またご気分が悪くなったら申し付け下さい。」
「ありがとう。」
気分が悪い時(主に嘔吐)に嗅ぐと良くなると言われる爽菊を摘んだせいか別に最終的なところまでいっている訳ではないのだが2人の顔は益々心配の色が濃くなった。
(気分が落ち着くわね……。)