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ーーー1年前
「昨日は助けてくれてありがとう。君の的確な処置のお陰で後遺症も残る事は無いだろうと屋敷の常駐医にも言われたよ。」
「……それは、スヘスティー公将家、ご子息のお力になれて、光栄で、ございます。」
「同級生なのだからそんな堅苦しくならず、ファーレと呼んでくれて構わない。僕もボイティと呼んで良いかな?」
(無理です。嫌です。お断りです。)
「…はい、どうぞお好きにお呼び下さい。」
助けた次の日に至近距離で声を掛けられ、余りの近さに彼の後ろに控える取り巻き達に実家を潰されるのではと警戒したが、他の生徒もその場に居あわせていたことで側にファーレが寄ってきても妬まれずに済んだが、何故か名前で呼んでも良いか問われ断固拒否したかったが、変わることの無い身分差に諦めて承諾を口にした。
「ボイティ、おはよう。」
「ボイティ、今度僕の屋敷で小宴があるのだけど君を招待しても良いかな?」
「ボイティ、この間着ていたドレス素敵だったね。今度君に贈り物をしても良いかな?」
「ボイティ明日の休みは何をするの?予定がなければ一緒に出かけないかい?」
ただあまりにも毎日側に来て至近距離で話しかけられ、内容も誤解を招きかねないものが多くこのままでは自分の身と家が取り巻き達により危険に晒されかねないと少しずつ増えてきた刺す視線に耐えかねて、意を決して話しかけないでくれと遠回しに伝える事にした。
「ファーレ様には他意は無いかと存じますが、お話の内容と接して下さる距離が婚約者を持つ身には余りにも多分な物かと思われます。お相手にもご迷惑が掛かると困りますので申し訳ございませんが、お話しに来られるのをお控え頂けますか。」
「そうか君には婚約者が居たね、それなら一層僕がこんな話しをしても勘違いさせる事が無くて安心だね。」
「……そうですわね。」
「身の程知らずね。」
「余りにもお優しいから勘違いなさったみたい。」
余りにも遠回しに伝えたのが悪かったか良く分からない理由を笑顔で返され、やはり家の力関係と後ろに控えている人達の嘲る声が煩わしく、そのままの距離で過ごす羽目になった。
「ボイティ、貴方ファーレ様とお付き合いをする事になったの?オクラドヴァニア様との婚約が解消された話しは聞いていないけれど?」
しかし思った通り迷惑な事態は起きるもので、付きまとわれて数ヶ月経ったある日教室で隣に座ったパメラの話しに背筋が凍った。